更新日:2026年05月29日 18:49
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『まだおじさんじゃない』現代中年 惑いまくり小説【第五章・第四話】「逸脱おじさん」/鳥トマト

 出版社・有幻社で漫画編集者として働く若林信二。担当作のアニメ化が決まり、ライツ事業部の堅山賢一とやりとりを重ねるうちに、自らが人生の"周回遅れ"であると気づく。失恋を振り払うように、婚活アプリを始めるがうまくいかず、編集部には怪文書が届き続けている…… 「僕も五十歳になったときに、部長のような力を維持できているだろうか」――。『東京最低最悪最高!』が話題の人気漫画家・鳥トマトが“大人にならなければ”と自らを戒める中年の心の惑いを描く。

第五章(若林信二編)・第四話「逸脱おじさん」

「じゃあ若林さん、今日はありがとね」 「こちらこそお時間、ありがとうございました」  去り行くタクシーに向かって下げた頭を戻すと、冷たい風が首元を吹き抜けていって身震いする。十一月になってから、急に寒くなって参った。神楽坂で打ち合わせという名目の会食をした大御所の作家がタクシーで先に帰り、俺と三上は店の前に取り残された。まだ二十一時だ。 「じゃあ、俺たちも帰ろっか」  そそくさと三上を背にして地下鉄の駅に向かって歩き出す。俺は三上の指導社員なわけだが、三上から編集長経由で「深夜にスラックをするのはパワハラだからやめてほしい」と言われて以来、必要以上の会話をしないように心がけていた。 「若林先輩、もう帰ります?」  三上が背中から聞いてきて、俺は困った。振り返ると、坂の上で立ち止まっている。お前のために早く帰ろうとしているのだが。 「よかったら、ちょっとだけお話しできませんか。今日は奥さんに子供をお願いしてきたんで、遅くまで飲めるんです」  どういう風の吹き回しなんだ? よく見ると三上の手がわずかに震えていた。三上なりに勇気を振り絞って俺を誘ったということなのだろう。そこまでされて断る理由は特にない。別に早く帰ったところで俺には団欒する家族もいないのだ。 「じゃあもう一軒、行こっか」
漫画家でありながら、歌ったり踊ったり、また小説家としても活動する奇才。現在、『二月に殺して桜に埋める』『私たちには風呂がある!』を連載中。その他の著書に『東京最低最悪最高!』『アッコちゃんは世界一』などがある。Xアカウント:@tori_the_tomato