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自宅を秘宝館に改造した異空間「八潮秘宝館」。飛田新地を思わせる“玄関だった部分”だけでも、訪れる価値は十分すぎるほど

 廃墟、巨大工場、珍スポット、戦争遺跡、赤線跡などこれまで旅行ガイドが見向きもしなかったようなリアル異界を積極的に取り上げる日本で唯一の異空間旅行マガジン『ワンダーJAPON』(前身は『ワンダーJAPAN』)。当連載は、編集長である私、関口 勇がこれまで誌面で取り上げたなかでも、「特にインパクトが強かったスポット」をピックアップしたうえ、順次紹介していくものだ。
八潮秘宝館

もともとは肉屋だった建物を改造し、2015年にオープンした八潮秘宝館の外観。非常に入りづらいかも

八潮駅徒歩20分ほどの住宅街にある「八潮秘宝館」

 埼玉県八潮市の「八潮秘宝館」は、『ワンダーJAPON(9)』の表紙にも採用した。以前取り上げた愛知県の「パブレスト百万ドル」同様、あまりにも衝撃的な、まさに《異空間》と感じたからだ。  八潮市といえば、今年はじめに起きた道路陥没事故で一躍名前が日本中に知れ渡ったが(転落したトラックの運転手はいまだに行方不明という……)、八潮秘宝館はつくばエクスプレスの八潮駅から南へ約1.5km、徒歩20分ほどの住宅街にある。

いまや数少なくなった「秘宝館」

 ふと思ったが、「秘宝館」という言葉、もしかしたら「何それ?」という人もいるかもしれない。1970年〜80年代に歓楽温泉街を中心に全国各地に建てられた「アダルト・ミュージアム」とでもいったシロモノだ。性をテーマにした古今東西のさまざまな民芸品・性具・春画・オブジェ・彫刻・映像などが展示・上映されていた。特に秘宝館を特徴づけていたのが、大量のエロい等身大人形。ムード音楽や女性の喘ぎ声をBGMに展示され、なかには電動モーターで回転したり、腰を振る人形などもあった。  下から風を送りスカートがめくれ上がるマリリン・モンロー(映画『七年目の浮気』)とか、複数の裸の女と3P、4Pを楽しもうとする男など、男性のエッチな妄想を等身大人形で再現したさまざまな展示(アートでは「インスタレーション」と呼んでいる)は秘宝館の醍醐味で、最盛期には観光バスが団体客を次々運ぶほどだったという。  それが平成になって社員旅行が激減し、展示内容が時代のニーズに合わなくなると、2000年に元祖国際秘宝館 鳥羽館(SF未来館・1981年オープン)が閉館したのを皮切りに、元祖国際秘宝館 伊勢館(1972〜2007)、北海道秘宝館(1980〜2010)、別府秘宝館(1976〜2011年)、嬉野観光秘宝館(1983〜2014)、鬼怒川秘宝殿(1981〜2014)が次々と閉館。ついに熱海秘宝館(1980〜 ※2024年リニューアル)が唯一現存する秘宝館となってしまった。だから、「秘宝館って何?」という人がいても当然だろう。  そんな状況を嘆き、一肌脱いでやろう……というわけではないけれど、ひとりの男が自宅を秘宝館に改造し、2015年秋に一般公開を始めてしまった。それが八潮秘宝館だ。私は、『ワンダーJAPON(9)』〜茨城・埼玉特集号の取材のため、2024年にオープン以来じつに9年ぶりに再訪。2015年の訪問時も、とてもリアルで精緻なつくりのオリエント工業製ラブドールがいくつも展示されていて驚いたが、その後も八潮秘宝館は進化し続けていたのだ。
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飛田新地を思わせる“玄関だった部分”
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『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ
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