“静かな住宅街”に佇む「入りづらい喫茶店」の正体。80代マスターの人生も“破天荒”だった
廃墟、産業遺産、巨大工場、ダム、大仏、公園遊具、珍スポットなど、日本中にある非日常スポット、風変わりな場所を紹介する《異空間》旅行マガジン『ワンダーJAPON』。当連載は、編集長である私関口勇がこれまで誌面で取り上げたなかでも、「特にインパクトが強かったスポット」をピックアップしたうえ、順次紹介していくものだ。
今回の舞台は、愛知県犬山市の名鉄犬山線「犬山遊園駅」。乗降客が少ない。周辺も静かな住宅街だ。だからこそ駅東口から100mほどのところにあるゴチャゴチャと絵や文字が描かれた建物の異様さがとても目を引く――。
側面の壁に「CAFE スパゲティ サンドイッチ……」と書かれ、かろうじて飲食店と理解する。だが、正面にある「この星に生きる」「戦争と平和」と書かれた看板は何を意味するのだろう。花や星に混じって不気味な目玉がいくつも描かれドキっとする。
「思いやり」「信頼」などスピリチュアルな言葉がテレパシーのように語りかけてくるのも気になる。「聖女純子」「夢で再会」など意味不明だし。たいへん入りづらい喫茶店だということだけはよくわかる。
ドアを開けると思わず声が出そうになった。天井からミラーボールやカラフルなモールがぶら下がり、大量の写真が壁を埋め、何点も絵が飾ってある。そこに装飾過多な店に負けじと派手な衣装で登場したのが「パブレスト百万ドル」マスターの大沢武史さんだ。開口一番、店内に飾ってあった写真を指して「これは愛人。これはわしと二人の子供だわ」といきなり身の上話が始まった。そこにはタンクトップ姿で茶髪の若い女性とおでこの広い小さな男の子が笑顔でこちらを向いていた。
マスターは1941年(昭和16年)生まれ。若く見えるが、なんと80オーバー。実家が飲食関係だったので1966年、25歳の時に早くも喫茶店「百万ドル」をオープンさせる。ちょうど高度経済成長期。犬山遊園地こそ閉園していたが、駅の東に遊園地併設の日本モンキーパークがあり、連絡モノレールが開業。木曽川ライン下りの終着点でもあったため観光客でごった返し、店はおおいに繁盛する。
女遊びもたくさんした。40歳で各務原(岐阜県)に土地を買い2号店をオープン。翌年、1号店を喫茶店からパブに変え現在の店名となる。その頃に「純子」さんと出会う。妻子がいるのに愛人生活を始めて15年、マスターが56歳の時に子供ができる。店内の小さな子供の絵はすべてその子だ。だが2008年、愛人と10歳になった息子がマスターを残し突然家を出た。本妻が愛人に手切れ金を渡し、出て行ってもらったんだそうだ。
静かな住宅街でひと際目を引く「入りづらい喫茶店」
80オーバーのマスターが歩んだ破天荒な人生
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『ワンダーJAPON』編集長(フリーランス・発行元はスタンダーズ)。廃墟、B級スポット、巨大構造物、赤線跡などフツーじゃない場所ばかり紹介。武蔵野美術大学非常勤講師。X(旧Twitter):@isamu_WJ
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