戦争当事国のアメリカでイランが試合へ。北中米W杯が突きつける「政治とスポーツは別」の限界とピッチの現実
’26年6月より始まるFIFAワールドカップ(W杯)北中米大会で、イランの出場が注目を集めている。イランは試合会場のアメリカからメキシコへの変更を求めたが、FIFAは却下。イラン側は22日に「大会への参加準備ができている」と声明を出した。
ジャーナリストの森田浩之氏は、今回のW杯は単なるスポーツイベントではなく、戦争と政治の現実がむき出しのまま入り込んだ大会になるとみる。そのうえで、「スポーツは中立だという幻想にとどめを刺す大会になるだろう」と指摘する(以下、森田氏による寄稿)。
開幕が6月11日に迫るサッカーのワールドカップ(W杯)。4年に1度のこの祭典は、いま悲惨な戦争と隣り合わせだ。アメリカとイスラエルによるイラン攻撃が、大会に暗い影を落としているのだ。
今大会はアメリカ、カナダ、メキシコの北中米3か国による共催。そのうちアメリカは戦争当事国だ。トランプ米大統領は4月21日にイランとの暫定的な停戦を延長すると発表したが、大会期間中も緊張が続き、武力衝突が起こる可能性は小さくない。
もう一つの当事国であるイランも、大会に集う48か国に名を連ねている。しかもイランは、1次リーグの3試合をアメリカで戦う予定だ。
イランのドンヤマリ・スポーツ相は4月初め、試合開催地をメキシコに変更しないかぎり、イランの参加は不透明になると語った。だが、国際サッカー連盟(FIFA)は開催地変更の要請を却下。FIFAのインファンティノ会長は先頃、「イランは必ず(W杯に)来る」と断言したが、根拠は見えない。
この一件では、現実を無視した言葉ばかりが目立つのだ。インファンティノはイランの出場について語った際、「政治とスポーツは別であるべきだ」と付け加えた。おなじみの理想論だが、何しろ今大会は戦争と同時進行だ。この言葉を唱えること自体、現実から目をそらすことになる。
トランプが発信する言葉も、この大会のゆがみを示している。彼はイランをW杯に歓迎するとしながら、アメリカでの試合開催は「彼らの命と安全のために適切ではない」とSNSに投稿した。
歓迎と警告を同時に示すメッセージは配慮の表れにも聞こえるが、実態は責任回避のレトリックに近い。問題が起きても、それは自分たちの選択の結果だと言わんばかりだ。
この構図をさらにこじらせているのが、FIFAと政治権力の近さだ。インファンティノは昨年12月のW杯組み合わせ抽選会の際、「FIFA平和賞」の授賞式を行った。賞を受けたのは、ノーベル平和賞を逃したばかりのトランプだった。
トランプはこの平和賞を手にした後、ほどなくして戦争に踏み切った。そしてインファンティノは、政治的なへつらいの塊のような賞をトランプに贈っておきながら、「政治とスポーツは別」と言ってのける。どこまで悪い冗談が続くのか。
今回のW杯は、スポーツは中立だという幻想にとどめを刺す大会になるだろう。観客が目にするのは美しいゴールシーンだけではない。むしろ、その背後にある泥沼の現実こそが、今大会の最大の「見どころ」になりかねない。
<文/森田浩之>
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など

’25年3月に行われたW杯予選の様子 写真/時事通信社
戦争と同時進行するW杯 イラン出場が映す現実
FIFAとトランプの近さが壊す「中立」の建前

森田浩之
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など
【関連キーワードから記事を探す】
沖縄タイムス炎上を招いた“身内ノリ”の危うさ。「天国から声が聞こえる」は情動への訴え<山口真由>
高市首相「時は来た」に世論はNO? 改憲反対が63%。石戸諭が読み解く“9条改憲”と“防衛力強化”のねじれ
ラグビー日本代表を支えた「帰化選手への不当な仕打ち」乙武洋匡が喝破。「日本出身の育成」という美名の罠
トランプ支持率が30%台へ急落。岩田明子が指摘する「第2次政権の危うさ」と高市首相に共通する孤独
「ホリエモンAI」が10歳児の間で流行。鈴木おさむが危惧する「法律で縛るほどAIがより巧妙に進化してしまう」皮肉
この記者は、他にもこんな記事を書いています




