「野球人口を増やしたければ、サッカーもバスケもやらせたほうがいい」少子化の日本スポーツ界が踏み出した“歴史的転換”<森田浩之>
9月2日、日本サッカー協会、日本バスケットボール協会、日本ラグビーフットボール協会など6団体が参画する連携プロジェクト「BALANCE IS BETTER JAPAN(バランス・イズ・ベター・ジャパン)」が発足し、記者会見を行った。子どもたちの持続的なスポーツ活動参加への支援を狙いとしている。
ジャーナリストの森田浩之氏は、今回のプロジェクトを、子どもを一つの競技に囲い込む日本のスポーツ文化からの大きな転換とみる。少子化が進むなか、「強い子を選び出す」よりも「スポーツをやめない子を増やす」発想が重要になると指摘する(以下、森田氏による寄稿)。

野球人口を増やしたければ、子どもに野球ばかりやらせない。サッカー人口を増やしたければ、サッカー以外のスポーツもやらせたほうがいい。
そんな、一見すると矛盾したことを日本のスポーツ界が言い始めた。
国内の6つの主要スポーツ団体が連携して、新たなプロジェクト「バランス・イズ・ベター・ジャパン」を立ち上げた。目標の一つが、スポーツにおける子どもたちの「早期専門化」を避け、複数の競技を経験する「マルチスポーツ」を広めることだ。
考えてみれば、大胆な方針転換だ。日本の子どものスポーツは「一人一競技」が基本だった。中学校で野球部に入れば野球少年、バスケ部に入ればバスケ少年。月曜はサッカー、水曜はバスケ、土曜は野球という中学生は珍しい。
だが幼い頃から一競技に絞ることが、トップ選手になるために必要だという科学的根拠は、実は乏しいという。一方で、同じ動作を繰り返すことによるオーバーユース障害や、精神的な燃え尽きにつながる危険性が指摘されている。
ならば、発想を逆転させる。サッカーをやっている子が時には野球もバスケもやる。スポーツ全般の楽しさを知ってもらい、強い子を選び出すより、スポーツをやめない子を増やす。その発想への転換だ。
アメリカではシンクタンクのアスペン研究所が’13年に始めた「プロジェクト・プレイ」で、同様の改革を進めている。
同研究所は、競技団体が子どもを奪い合う状況を「軍拡競争」に例えた。一つの競技団体だけが子どもに他競技を勧めれば、選手を奪われかねない。それでは「一方的な軍縮」になってしまう。そこで、競技団体が連携して子どもの「囲い込み」をやめようと呼びかけた。全米で数十のスポーツ団体が、マルチスポーツを支持して共同歩調を取った。
日本のスポーツ界にも「軍縮」をせざるを得ない事情が生まれた。少子化である。
だがそれは、スポーツ界にとって悪いことばかりではないのかもしれない。子どもがたくさんいた時代には、厳しい練習についてこられない子がやめても、次の子がいた。日本のスポーツ界は、そんな大量参加・大量脱落の仕組みに甘えてきた面もある。
しかし今は、一人一人が長く続けられるようにしないと、競技そのものが成り立たない。何よりも、やめる子を減らすことが重要な課題になった。
少子化が日本のスポーツを少し豊かにする──6団体の「軍縮協定」は、そんな意外な変化の始まりかもしれない。

<文/森田浩之>
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など

写真提供元/公益財団法人日本スポーツ協会
一つの競技に絞らない、日本スポーツ界の方針転換
少子化で生じる「子どもの囲い込み」からの脱却

森田浩之
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など
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