4年で収入130億ドルの巨大利権。トランプ氏が揺さぶるW杯と、批判の渦にあるFIFAの“過密金権バブル”
アメリカ代表バログンに対する裁定を巡って、トランプ氏は「(FIFA会長に)どうしろと指示したことはない」と弁明。FIFA規律委員会は「具体的な状況、入手可能な証拠を考慮して決めた」と主張しているが、批判の声が渦巻いている。
ジャーナリストの石戸諭氏は、開催国の大統領が審査中にFIFA会長へ電話をかけた時点で、その正当性は大きく揺らいだとみる。また、トランプ氏の「安易な言動は目先の結果ばかりが優先され、周囲を疲弊させる」と批判する(以下、石戸氏の寄稿)。

トランプ大統領の「王の振る舞い」が、サッカーW杯北中米大会まで揺さぶっている。事の発端はアメリカ代表のFWバログンがボスニア・ヘルツェゴビナ戦で一発退場になったことだ。FIFAの懲戒規定ではレッドカードを受けると、次戦は出場停止になる。ところがFIFAは処分を1年間猶予する異例の決定を下し、バログンは大一番であるラウンド16ベルギー戦に出場できることになった。
問題はトランプ大統領だ。バログンのプレーを「ファウルではない」と公言し、かねてから親交のあるインファンティノFIFA会長に電話をかけたことまでオープンにした。本人は無邪気に電話しただけなのかもしれないが、問題は意図よりも行為にある。
仮にバログンのファウルが、正当な規定にしたがって審査されていたとしよう。しかし、審査の最中に開催国の元首が、主催者に電話をかけて疑義を呈するという行為そのものが政治による“介入”だ。結果、決定の正当性を揺るがす。加えて、FIFA側は何も合理的な説明をしていない。
アメリカのサッカーはNBAなどの4大プロスポーツほどメジャーではない。いわば成長余地のある巨大市場である。日経新聞によれば、北中米大会関連の収益を中心に’23~’26年の4年間のFIFAの収入は約130億ドルに達するという。これは前回カタール大会までの4年間と比べて倍だ。世界中に広がる抗議の声は、金権主義、過密日程を強行するFIFA批判ともリンクしているのだ。
肝心の試合はベルギー代表が4-1でアメリカに勝利したが、騒動は彼らの大きなモチベーションになったのだろう。ベルギーのFWルカクが、トランプ氏が時折見せるダンスをパロディ的に取り入れたゴールパフォーマンスを披露したことは象徴的だった。
不幸なのはアメリカ代表だ。MFプリシッチを中心とするアタッカー陣は粒揃いで、攻守に果敢なスタイルを取る好チームだったが、ベルギー戦は集中力を欠いているように見えた。声援が支えるホームであり、本来ならば点差ほどの実力差はない。バログンが出場しないほうがいい戦いができたのでは? そんな後悔を抱かせるような内容だった。
トランプ氏の安易な言動は目先の結果ばかりが優先され、周囲を疲弊させる。対イラン交渉ではSNSでの発信一つで世界経済を振り回し続けた。「またしても」がサッカー界にまで及んだ。こんな状況に世界はいつまで付き合わされるのだろうか。

<文/石戸諭>
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)

’25年8月のインファンティノFIFA会長のホワイトハウス訪問時 写真/The White Houseより
開催国大統領の“介入”で深まったバログン裁定への疑念
トランプ氏の援護がアメリカ代表を追い詰めた皮肉

石戸諭
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)
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