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鬼才・園子温のスゴすぎる小学生時代「性的異常が見られます」

園子温

『非道に生きる』(園子温/朝日出版社)

『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』など、話題作を次々と世に問うている映画監督の園子温。最新作『希望の国』では、現代日本最大のタブー・原発問題に真っ向から挑んでいる。既成の枠組みをブチ壊しながら道なき道を行く――そのエネルギッシュすぎる生き方は、小学生時代からその片鱗を見せていた。今回紹介する『非道に生きる』(園子温/朝日出版社)は、鬼才の素顔にせまる一冊だ。

 本書の著者である映画監督、園子温(その・しおん)の小学校時代の通知表には、教師からのこんな言葉が記されていた。

「性的異常が見られます」

「落ち着きがない」「教師の話を聞かない」であれば珍しくはないが、「性的異常」にはなかなかお目にかかれない。子温少年は一体何をしたというのか。

 答えは驚くほどシンプル。彼は、全裸で教室に入っていったのだ

 教師から「全裸」であることをこっぴどく叱られた彼は、これくらいではへこたれない。「全裸」がダメなら、と今度は下半身だけ丸出しにして 教室に入っていく。「チンチンを出して教室に入ること」を禁止されると、今度はきちんと服を着て教室に入って行き、授業中にこっそりとパンツを下ろす。

 一休さん並みのとんち能力で教師の裏をかく著者は、全裸では飽き足らず、校内新聞で「ただれた女の手記」という連載をしていたこともある。これはもう、立派な(?)性的異常者だ。

 しかし、性犯罪者になることなく話題映画を作り続けていることからも分かるように、彼を突き動かしていたのは倒錯した性衝動ではなく、抑えきれない好奇心だ。こんな奇行も彼にとっては、「なんで服を着て学校に行かなきゃならないんだろう」という疑問と「服を脱いだときの皆の反応を見てみた い」という欲望から導かれた実験に過ぎない。

 やりたいと思ったら、面白いと感じたら、その行動を止めることはできない。そこに道はなくても、他人から非道と言われても、園は自分を信じて疾走し続ける。本書には、園子温のジェットコースターのような非道の半生が、ものすごいスピード感で描き出されている。そこには、17歳のとき家出した先で出会った人妻と千葉で生活した話、画期的過ぎるアダルトビデオを製作して監督をクビになった話、謎のパフォーマンス集団「東京ガガガ」を結成して機動隊と仲良くなる話など、驚きのエピソードが満載だ。

 10月20日公開の最新作『希望の国』 で描かれる原発というテーマは、二度とない現在を重視する著者にとって、避けて通れないものであった。”園子温”の名前に寄ってきていた資金やスポンサー も、映画のテーマが原発であると分かると離れていき、その撮影には様々な苦労が伴ったようだ。何より、この時期にこのテーマで商業映画を作ることにどんな意味があるのか、被災者はどのように受け止めるのか、園自身もこれまでにない葛藤を抱えていた。それでも彼はこの映画を通して、「今」の空気を、情緒を、リアルを記憶することを選んだ。「思い出すからやめてくれ」を越えたところに、監督としての思いが込められている。

 園のこだわりは、当事者性という言葉でも表現されている。当事者になりきるために、当事者としての声を得るために、彼は取材時にテープやカメラを使用しないという。テープやカメラの前で語られる言葉は、どうしても客観的なものとなってしまうからだ。現場にどっぷり入り込み、自ら当事者に憑依することで、刹那にこぼれる言葉を著者は映画で切り取ろうとしている。

 自分が面白いと信じるものを作り出すためなら、刹那に生きる当事者の今を記憶するためなら、既成の映画の枠組みなど関係ない。歴史性の張り 付いた完成されたフォームなど、ぶち壊すから面白いのだ。「こんなの映画じゃない」は、著者の映画への最上の褒め言葉なのかもしれない。<文/村上 浩(HONZ)>

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http://honz.jp/15968

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非道に生きる

“映画のような”壮絶な人生




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