更新日:2022年06月23日 14:22
スポーツ

大晦日の格闘技テレビ放映は“アリ”だったのか?を考察【2015 12/29&31 RIZIN会場レポート】

「視聴率出ました! 7.3%でした。皆さんのおかげで大健闘の数字を頂けました」  RIZIN実行委員長の榊原信行氏は、大みそか格闘技興行のテレビ平均視聴率(第2部)がビデオリサーチから発表された1月2日、Twitterでこうコメントした。ここ数年、フジテレビの大みそか特番はどん底状態にあった。15年の『ワンピース エピソードオブチョッパー+冬に咲く、奇跡の桜』が3.3%、14年が4.0%、13年が2.0%。それらと比較すると、今回は「大健闘」は大げさにしても、たしかにひとまずの及第点はクリアできたといえるだろう。
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「出てこいや」「やれるのか」。髙田延彦の台詞、言い回し等はPRIDE時代を受け継いでいた

 数年前まで、大みそかの格闘技中継はお茶の間の特等席を占めていた。2003年には日本テレビ(INOKI BOM-BA-YE)、TBS(K-1 PREMIUM 2003 Dynamite!!)、フジテレビ(PRIDE 男祭り 2003)と3局が格闘技を同時放映。特に曙VSボブ・サップの一戦は、元横綱が車に轢き殺されたカエルのように潰れるという衝撃的KOシーンもあって、最高視聴率43%を記録。民放として初めて『紅白歌合戦』(NHK)を上回る。いよいよこれで「12月31日=格闘技の日」という方程式は磐石のものとなっていく。  ところがPRIDEが暴力団組織と癒着していることを一部週刊誌にスッパ抜かれると、フジテレビはPRIDE中継から撤退。これを機に日本の格闘技バブルは徐々に萎んでいき、大みそか特番も2010年の「Dynamite!!」(TBS)を最後にブラウン管から消えてしまった。一方でPRIDEを買収したアメリカ・UFCは躍進を続け、世界と日本の「格闘格差」は埋められないものになっていく。そんな中、今回立ち上がったのが旧PRIDEスタッフが中心となっているRIZIN。日本の格闘技はテレビの地上波放送と切り離せないため、今回の視聴率は業界内外から大きな注目を集めていたのだ。
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ヘビー級トーナメントには世界、特に欧州勢の強豪選手に可能性を感じた

 もっともお茶の間のテレビ放映と会場に集まる格闘技ファンでは、消費のされ方もまるで異なってくる。日刊SPA!は12月29日・31日と会場に足を運んだが、まず驚いたのが照明・音響・映像など演出部分のゴージャスさだ。とにかく資金を惜しみなく投入していることがヒシヒシ伝わってくる。「各国のMMA団体代表8人がエントリーした」という触れ込みのヘビー級世界トーナメントも、一般的には石井慧以外ほぼ無名選手であるにもかかわらず、賞金総額はなんと1億円(優勝賞金4000万円)だという。もちろんこれは選手にとっても夢のある話。強豪選手がUFCばかりに集まっている現状に「待った」をかける起爆剤になるかもしれない。観客動員数は主催者発表で29日が1万2214人、31日は1万8365人。29日に関しては6~7割程度の埋まり方だったが、好試合が連発されたこともあって、会場の熱量は申し分なかった。このイベントが本当にファン待望だったことは間違いないだろう。  大会終了後、会場の外で複数のファンから話を聞いたが、イベントに関してはおおむね好意的な意見が多かった。 「4点ポジションでの膝、サッカーボールキック、踏みつけ、金網じゃなくてリング、1R10分……世界の格闘技の流れに逆行しているルールは最初どうかと思ったけど、スリルがあって単純に面白かった。UFCと差別化する意味でも、ガラパゴス路線でいいのでは?」(38歳・自営業) 「(エメリヤーエンコ)ヒョードルが連れてきたロシア人軍団4人が強すぎて笑った。ミルコ(・クロコップ)軍団や(アントニオ・ホドリゴ・)ノゲイラ軍団も作ってほしい」(29歳・通信) 「期待値は低かったけど、ヘビー級トーナメントがめちゃくちゃ面白かった! こんな強い選手ばかりよく集めたなって感心した。石井が入り込める余地はないかも……」(34歳・IT) 「トーナメントの選手は、キャラが濃いのが最高! リトアニアのオオカミ男(テオドラス・オークストリス)、キング・モーに負けた、木こりみたいなイギリス人(ブレット・マクダーミット)、ヒョードルと同じ動きをする愛弟子(ワジム・ネムコフ)あたりは完全に心を鷲掴みにされた。国際プロレスに上がっていた外国人選手みたいなワクワク感がある」(43歳・派遣)
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異形の肉体から繰り出されるパンチ

 その他、目立ったのはRENAやギャビ・ガルシアといった女子選手に対する高評価。また、才賀紀左衛門や山本アーセン、アンディ・サワーといった総合初進出組への期待値も大きかった。一方で桜庭和志や高阪剛といったベテラン選手を偏重するカード編成には否定的な意見が多い。完全に賞味期限切れというわけだ。曙VSボブ・サップ再戦に対しても同様である。もちろんこれはテレビ放映を見越して組まれたカードだと思われるが、そのテレビ構成に関しても「ダイジェストと再放送ばかり」と否定的な意見はあった。コアな会場組とテレビ組の双方を納得させるコンテンツ作りは、RIZINが抱えた最大の課題といえるだろう。  とにもかくにも上々の滑り出しでスタートしたRIZIN。4月17日には名古屋・日本ガイシホールで次回大会が開催されることも発表され、こうなるとますます期待が高まってくる。「ジェロム・レ・バンナの直前欠場」、「階級差無視のマッチメーク」などに関しては辛辣な意見も飛び交っているが、そんなことは運営サイドだって百も承知なはず。だが思えばPRIDEやUFCも最初はグダグダの大会だったのだ。ヒョードルもコールマンも世間的には無名の選手だったのだ。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1021954  一から歴史を作り上げようとするRIZINに対する、かつて格闘技に夢中になったファンからの期待は大きい。ヘビー級路線では新たなスター誕生の兆しも見えた。日本版MMAの完全復活に向けて、選手・スタッフにはアクセルをベタ踏みしていくことを期待したい。 〈取材・文/小野田衛 撮影/丸山剛史(クレジット以外)〉
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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