有馬記念が引退レースとなる馬の“注目すべきポイント”。ドウデュース以外に複数頭が該当
古から伝わる競馬格言に「引退レースの馬は消し(軽視)」というものがあります。
引退レースであることが事前にニュースになるレベルの馬であれば、引退後は種牡馬(繁殖牝馬)としての第二の仕事が待ち受けています。大きなお金が動くビジネスだけに、陣営に「無事に牧場に帰したい」という意識が生まれ、ギリギリまで仕上げなかったり、大事に乗られたりするというのが格言の根拠。
実際には、ディープインパクトやオルフェーヴル、キタサンブラックなど引退の花道を飾って大団円を迎えた馬も多いのですが、競馬歴の長いファンほど、「引退レースの馬は消し」の格言を強く意識しているように思えます。おそらくそれは、とある名馬の引退レースの記憶が刻み込まれているからでしょう。
そのレースとは1998年のスプリンターズS。和暦に直すと平成10年です。まだ有馬記念の前週にスプリンターズSが行われていた時代で、タイキシャトルがこのレースでの引退を表明。レース後に、引退式の予定が組まれていました。
タイキシャトルはここまで12戦11勝。3歳春の菩提樹Sでクビ差不覚を取った以外は全勝という完璧な成績で、前走のマイルCSでも0.8秒差の圧勝を収めており、ほとんどの競馬ファンがこの馬のスプリンターズSの勝利を疑っていませんでした。
単勝1.1倍の支持を受けたタイキシャトルは、最後の直線入り口で先頭に。ここから楽に抜け出すかと思われましたが、その外にピッタリつけたマイネルラヴとのマッチレースになります。
2頭による激しい追い比べの末、マイネルラヴがタイキシャトルを競り落としてゴール。タイキシャトルはゴール寸前で最後方から追い込んできたシーキングザパールにも差され3着に沈みます。マイネルラヴとタイキシャトルの馬連一点勝負だった大学一年生の私は椅子から転げ落ちました。
レース後には、予定通りに引退式が執り行われましたが、ここでハプニングが発生。ターフビジョンに映し出されたタイキシャトルの全成績に「スプリンターズS 1着」と記されていたのです。それぐらい、誰もが勝利を疑っていなかったのです。
さて、今年も有馬記念がラストランになる馬がいます。1頭目は言わずとしれたドウデュースです。
2022年のダービー馬で、ここまでG1レースを5勝。充実期を迎えた今秋は天皇賞(秋)・ジャパンCをいずれも上がり32秒台の豪脚で差し切っています。出走馬を決めるファン投票では歴代最多の47万8415票を獲得。レース当日に引退式が予定されていますが、多くのファンが大団円での引退セレモニーを信じていることでしょう。
そんなドウデュースが挑む一つの「壁」が秋古馬3冠。秋古馬3冠とは天皇賞(秋)、ジャパンC、有馬記念のことを指しており、同一年に3戦すべて勝利した馬は、長い競馬史において2000年のテイエムオペラオー、2004年のゼンノロブロイの2頭しかいません。3つのレースが中3週で続くためそもそも皆勤が難しく、連勝しても有馬記念で余力が残っていないことが多いのです。
グレード制導入の1984年以降、天皇賞(秋)とジャパンCを連勝した馬は1999年のスペシャルウィーク、2020年のアーモンドアイ、2023年のイクイノックスで、アーモンドアイとイクイノックスは有馬記念に不出走、スペシャルウィークは2着でした。
ちなみに、スペシャルウィークをハナ差退けたのは、同年の宝塚記念馬で同期のライバルであったグラスワンダー。その例に倣うと、ドウデュースの偉業を阻むのはブローザホーンかもしれません。
単勝1.1倍、引退レースでまさかの3着
レース当日に引退式を行うドウデュース
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馬券攻略誌『競馬王』の元編集長。現在はフリーの編集者・ライターとして「競馬を一生楽しむ」ためのコンテンツ作りに勤しんでいる。
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