夢、仲間、絆…行き詰まった職場ほど“ポエム化”する

夢、仲間、絆、希望、笑顔、理想の自分――。ブラック企業に限らず、“ポエムな言葉”が盛り込まれた社歌を歌いながら体操したり、社員に駅前清掃を強要する企業も少なくない。こうした独自の規定を義務づけ、社員の労働意欲を引き出し洗脳しようとする「ポエム化する日本企業」の実態とは?

◆ポエムは具体的な目標ではない。だから、人はごまかされてしまう

小田嶋 隆氏

小田嶋 隆氏

 夢、仲間などのポエムに煽られて、労働意欲が上がることのいったい何が悪いのか。コラムニストの小田嶋隆氏はポエム化の危険性についてこう語る。

「ポエム化の一番の問題点は、目的が抽象的だという点です。例えば、震災後に政治家やマスコミがこぞって使っていた『被災者に寄り添う』『想いを伝えたい』などのフレーズは耳当たりはいいけれど非常に抽象的ですよね。ポエム的な言葉は個人の心情や感情をうまく取り入れているから、共感を呼びやすい。でも、『じゃあ実際には何をするのか』というと、まったく姿が見えてこないんです。結果、責任範囲の明確さや意味が損なわれるので、グレーゾーンが大きく、具体的には何も提示されていないのに、納得させられてしまう。こうした感情的なごまかしが生まれるから、ポエムは危険なんです」

 一方、「行き詰まった職場ほどポエム化する」と語るのはブラック企業対策プロジェクト共同代表の今野晴貴氏。

今野晴貴氏

今野晴貴氏

「ポエム化する職場は、飲食店や介護、工場の生産ラインなど単純作業かつ労働条件が悪いブラックな職場が多いんです。普通の企業なら昇進や昇給、スキルアップなどの目標がありますが、こうした職場では長時間勤務で低賃金と労働条件が過酷だし、スキルの向上も一定ラインで頭打ちです。そんな辛い状況から目を逸らせるため、目標の代わりにポエムを持ち出し、社員に耐えさせようとする。そして、社員が『残業代や休みをくれ』と言えば、『頑張りが足りない』と根性論で否定するんです」

 本来は労働者が求めるべき正当な対価や待遇が搾取されてしまい、こんなに理不尽なことはない。だが、「ポエムがはびこるのは、なにもブラック企業だけの話ではない」と指摘するのは、社会学者の阿部真大氏。

阿部真大氏

阿部真大氏

「ポエム自体は、日本では昔からあるものなんです。愛社精神だってポエム的だし、大企業にもあるような社歌やスローガンなども大半は根性論的なポエムです。もっとも、昔は一度就職してしまえば、一生涯会社が面倒を見てくれたので根性論を求められても問題なかった。ただ、ポエム化企業の場合は、そうした姿勢を求めつつ、それに見合う対価は与えない。だから問題なんです」

 また、企業のポエム化は精神的に成熟しない大人を生むと阿部氏は続ける。

「10代の高校生が甲子園を目指して頑張る姿は確かに感動を生む。でも、居酒屋甲子園のようにいい年した大人が、人前で自分の希望や夢をぶちまけて感動するというのは、家族や会社など他人のために働くのが普通だった上の世代に比べると、あまりに幼稚。今後、ポエム化が進めば、年齢は大人なのに精神的には未熟な人が増える可能性もあるでしょうね」

 自分には関係ない。そう思っているかもしれないが、実は世の中にはポエムが満ち溢れている。気づかぬうちに、自分もポエマー化している……なんてことがないように注意したい。

【小田嶋 隆氏】
コラムニスト。日経ビジネスオンライン「ア・ピース・オブ・警句」をはじめ、多数連載を持つ。著書は『ポエムに万歳!』『場末の文体論』など多数

【今野晴貴氏】
NPO法人POSSE代表理事。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。一橋大学博士課程に在籍中。著書に大佛次郎論壇賞を受賞した『ブラック企業』など

【阿部真大氏】
社会学者。甲南大学文学部准教授。著書『搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た!』が話題に。最新刊『「破格」の人―半歩出る働き方』が発売

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