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「年中無休、24時間対応の動物病院」診察や緊急手術の様子も“ありのまま”投稿する理由。TikTokでは再生数600万回超の動画も

 小動物の緊急手術でも”神の手”で救う33歳の若き獣医師はその診察や手術の様子をSNSで発信し続け、業界ナンバーワン・インフルエンサーとなった。  医師らしからぬルックスに爽やかな語り口でフォロワーを魅了する、新時代の獣医師の素顔とは──?

獣医になったきっかけは?

エッジ110512 休日の東京・港区芝公園。夜のとばりが下り、煌々と輝く東京タワーが見下ろす街で、動物を抱きかかえた“飼い主”が、涙を流しながら駆け込んでいく場所がある。ここは年中無休、24時間対応の救急救命動物病院・芝アニマルクリニックだ。1匹でも多くの動物を救いたい──。  一方で、受付にはチャンネル登録者数10万人超のYouTuberに贈られる銀の盾。院長の稲野辺悠氏は「夜の獣医師ゆってぃー」の名で、診察や緊急手術の様子も“ありのまま”投稿する。  犬、猫、うさぎ、ハムスター、トカゲ、何でもござれの博識さで、独立1年で獣医業界ナンバー・ワンインフルエンサーにのし上がった。真摯な動物愛とインフルエンサーというアンビバレントな姿を持つ獣医の素顔に迫った。 ──そもそも、獣医を目指したきっかけは何だったんですか? 稲野辺:小学校低学年の頃、飼っていたシマリスの具合が悪くなり、動物病院で診てもらったのですが、死んでしまい、「この子たちを救えるようになりたい!」って思ったんです。そのためには獣医大学に入り、国家試験をパスする必要がある。  でも、高校2年のときに打ち込んでいたサッカーがケガでできなくなり、学校生活の意味を見失って、不登校になってしまったんです。だから、大学受験どころか、高校卒業さえ危なかった。

通常5~10年を要する「黒字化」を2か月でクリア

エッジ110512──現在の活躍ぶりから察するに、かなり優秀な学生だったと想像します。 稲野辺:それが、決して出来のいい学生ではなかったんです。それでも、大学卒業時には「20代で都内の一等地で開業」という目標を立てました。  獣医師は勤務医を経て40歳前後で独立開業というのが一般的。20代で開業した人はほぼいないし、都内一等地ならなおさらハードルが上がる。  目標のため、夜間に一人で対応するしかない24時間救急病院ばかりを職場に選び、自分を追い込んで経験を積みました。 ──2023年10月、芝アニマルクリニックを開業して、見事に目標をクリアします。 稲野辺:32歳になっていたので、目標の20代には少し間に合いませんでしたね。獣医の開業って結構大変で初期投資だけで5000万円以上、当座の運転資金も必要なので、黒字化するには5~10年かかるといわれます。  でも、ウチはありがたいことに2か月目以降、ずっと黒字でやらせていただいてますし、開業1年目で無事にボーナスもスタッフに支給できる見込みです。

ワラビーがやってきて院内を飛び回ったことも!

──多くの動物病院では主に犬や猫を診療していますが、エキゾチックアニマルも診てますね。 稲野辺:エキゾチックアニマルの診療ができて、夜間救急対応の動物病院は全国でも数えるほどしかないので、競合との差別化を図れる。それに、シマリスを救いたくて獣医になったくらいなので、エキゾチックアニマルを診るのは私にとって当然でした。  ただ、サーバルキャットが来たときはギョッとしました(苦笑)。珍しい動物の場合、その都度、勉強しながら治療に当たるしかない。  でも、サーバルキャットにしても、猫であることに変わりはない。猫はたくさん診ているし、脊椎動物ならそれまでの知識や経験で対応してます。  それに、こうした珍しい動物は急患でやってくることが多い。救命が最優先なので、種は違えどやることは限られるので対応できるんです。  ほかにも珍しい患者では、TikTokなどで最近人気のマーモット、ショウガラゴも来ました。どちらも個体価格が軽く100万円超えで、さすが港区!という感じ。  あと、ワラビーが来たときは、院内をピョンピョン跳ねてスタッフが少しあたふたしていました(笑)
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治療の様子を「見える化」し飼い主の不安を払拭
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