サッカーJ1残留争いのカギは、名古屋の「デス勝ち点」
Jリーグも残すところ4試合。優勝争いは浦和、ガンバ大阪、鹿島、川崎が入り乱れて混戦模様。最終節までもつれそうな勢いである。
白熱した優勝争いの裏側で、もう一つ白熱した戦いがある。それは残留争い、降格争いと言われる下位チームの戦いである。それは文字通り負けられない戦いなのである。
<10月27日現在の順位>
【順位】チーム:勝ち点
【12位】名古屋グランパス:40
【13位】ヴァンフォーレ甲府:33
【14位】ベガルタ仙台:33
【15位】大宮アルディージャ:1
――――降格ライン――――
【16位】清水エスパルス:31
【17位】セレッソ大阪:30
【18位】徳島ヴォルティス:13(降格確定)
※得失点差は割愛
18位の徳島は降格が確定。12位の名古屋はほぼ安全圏と言われており、残すところ降格の枠は2チームとなりそれをめぐって13位甲府から17位セレッソまでが激しい争いを繰り広げている。
降格を巡っては一昨年、ジュビロ磐田の前田選手がその年のファーストゴールを決めたチームが降格するという、いわゆる“デスゴール”が話題となった。だが、前田選手のゴールよりも遙か昔から存在する、ある不吉なデータがあることをJリーグのファンはご存知だろうか? それは「名古屋の呪い」ともいうべきデータである。Jリーグを中心としたサッカー番組の制作に15年以上携わるディレクターに話を聞いた。
「名古屋というチームは万年中位のチームで。Jリーグの中位とは6~10位くらいを指すんだけど、ず~とその辺りをうろうろしていた。このチームが優勝争いに絡めなかったのは、とにかく取りこぼしが多いこと。下位チーム相手にポロッと負けてしまうことが多々あった。ストイコビッチが監督になって優勝したり、AFCに出場したりで強豪チームって言われるようになったけど、それでも下位チーム相手にポロッと負けたり、勝ちきれずに引き分けたりね」
そんな名古屋を指して「中位力」や「名古屋の“や”は八で“や”だ。だから名古屋は8位が大好き」なんて言われることも少なくないのだとか。その中位力たるゆえんとも言われる、下位チームの取りこぼしはどのくらいのものなのか……。降格争いが始まった1999年まで遡り、降格チームからみた名古屋の対戦成績を集計してみた。
すると驚くべきデータが判明したのである。
<降格チームの対名古屋戦成績>
【1999年】
浦和:0勝2敗
平塚(現・湘南):1勝1敗
【2000年】
京都:1勝1敗
川崎1分1敗
【2001年】
福岡:0勝2敗
C大阪:0勝2敗
【2002年】
広島:0勝2敗
札幌:2勝0敗
【2003年】
仙台:0勝2敗
京都:1分1敗
【2004年】
柏:1分1敗(※この年は自動降格無し。入替戦になったのは柏だが、福岡との入替戦を制してJ1残留)
【2005年】
東京V:1分1敗
神戸:2勝0敗
柏:0勝2敗(※柏は入替戦で甲府に負けてJ2降格)
【2006年】
京都:1分1敗
C大阪:1分1敗
福岡:0勝2敗(※福岡は入替戦で柏に負けてJ2降格)
【2007年】
甲府:1分1敗
横浜FC:1分1敗
広島:1勝1敗(※広島は入替戦で京都に勝ってJ1残留)
【2008年】
東京V:1勝1分
札幌:0勝2敗
磐田:1勝1分(※磐田は入替戦で仙台に勝ってJ1残留)
【2009年】
大分:1勝1敗
千葉:1勝1敗
柏:1勝1敗
【2010年】
京都:0勝2敗
湘南:0勝2敗
FC東京:1勝1敗
【2011年】
甲府:1勝1敗
福岡:0勝2敗
山形:0勝2敗
【2012年】
神戸:0勝2敗
G大阪:1勝1分
札幌:1勝1敗
【2013年】
湘南:1分1敗
磐田:1分1敗
大分:0勝2敗
入替戦に出場したチームを含めた下位チーム38チーム中、名古屋から勝ち点1以上を獲得したのは実に24チーム。しかも、降格したチーム(入替戦に出たチーム含む)が名古屋から勝ち点を取っていないのは、2001年の一度きり。これは呪いとまではいかなくとも、かなり確率の高いデータではなかろうか。
特に最近では、2009年は降格3チームが全て名古屋から勝利を挙げており、優勝した2010年に降格したFC東京は名古屋が優勝を決めた次の試合で勝って残留に望みを繋げたものの最終節ですでに降格が決まっていた京都に負け、さらに神戸の劇的勝利も加わって逆転でJ2降格。2012年のガンバ大阪は豊田スタジアムで行われたメモリアル試合で5点をブチ込んで快勝などなど、劇的な形で勝利をプレゼントしているのも忘れてはならない。
こうした名古屋の弱きを助ける姿勢を一部サポーターからは、「あ~降格争いしてんのに、ウチから勝ち点取っちゃったよ。大丈夫?」なんてことまで言われる始末だ。
では、今年のJリーグに当てはめてみると、どうだろうか?
<2014年 対名古屋対戦成績>
【13位】ヴァンフォーレ甲府:1勝1敗
【14位】ベガルタ仙台:0勝2分
【15位】大宮アルディージャ:1敗(残り1試合は11/29)
【16位】清水エスパルス:1勝(残り1試合は11/22)
【17位】セレッソ大阪:1勝1敗
【18位】徳島ヴォルティス:1分1敗
なんと、降格が決まった徳島を含む6チームのうち、大宮を除く5チームが名古屋から勝ち点を取っているのだ。オマケに3チームはそれぞれ勝ち点3を手にしているのである。しかもまた、名古屋との試合がそれなりにドラマチックな試合展開だったりするのだ。
ベガルタはホームで3度勝ち越すも追いつかれ引き分け、アウェイでは名古屋の猛攻をしのいで0-0の引き分けで辛うじて勝ち点を都合2プラスした。清水は開幕戦、名古屋のホーム・豊田スタジアムに乗り込み前半で2点も入れられてしまうも後半に粘って逆転勝ち。セレッソに至っては、満員のアウェイ豊田スタジアムで退場によって10人になりながらもW杯戦士であるフォルランが逆転ゴールを決めた。
大宮以外のいずれのチームも名古屋からしっかり勝ち点をもぎ取っているわけで、この法則からすると、大宮が一番残留する確率が高いのかも……しれない。(※大宮はまだ名古屋との試合を残しているので、最終的な対戦成績は現時点では不明)
では、こうした名古屋の“デス勝ち点”は抜きにして、サッカー関係者は今年の残留争いをどのように見ているのだろうか。先述のディレクターに話を聞いた。
「清水だろうね。あとは団子で大差ないように思える。まぁ、どこが落ちてもおかしくないんだけど対戦相手との妙も考えなきゃダメだよね、こっから。セレッソは残りが仙台、鹿島、大宮、甲府。大宮は柏、名古屋、セレッソ、広島。甲府はFC東京、清水、セレッソ、広島。清水は柏、川崎、名古屋、甲府。仙台はガンバ、セレッソ、広島、徳島となっている。この中で清水は特に巡り合わせが悪いように思えるな。守備陣が安定しない中、川崎と柏を相手にするのはかなり厳しいと思う。エースであるウィルソンが先日の名古屋戦で負傷して全治3~4週間と、仙台にアクシデントがあったからちょっと分が悪いかもね。前々節の名古屋戦は名古屋の拙攻に助けられて無失点の引き分けで辛くも勝ち点1をゲットしたけど、先日の柏戦は後半ロスタイムで決められて負けで流れはよくない。こういう劇的な負けって、降格するチームにはよく起こるんだよ。そして次節が優勝争いをするガンバでしょ。ここで負けると、他チームの動向次第だけど、けっこう危険な状況になるんじゃないかな。対戦相手も最後に徳島がいて実質的には有利とも思えるけど、それが逆に変な安心感を呼んじゃうこともあるからね」
では、残留争いから一歩抜け出したデス勝ち点・名古屋のお膝元のメディア関係者はどう見ているのだろうか。
「正直、今年の名古屋は降格するかも……と地元のマスコミ関係者は囁いていたよ。レアンドロ・ドミンゲスと川又堅碁の加入でなんとかなったけど、レアンドロ・ドミンゲスはケガで今季はほぼ絶望。おまけに名古屋はこの後、降格圏からなんとかして抜け出そうとしている清水や大宮との対戦、そして最終節は優勝争いをする浦和だしね。安全圏とは言えど、ちょっと不安(苦笑)。よそ様のことは言える立場じゃないけど、大宮はなんとかするんじゃないかと。10年もの間、毎年残留を巡って戦ってきた“一日の長”があるから。終盤の粘り強さはハンパないもんね、大宮は。デス勝ち点? あんまり気にしたことはなかったけど、確かに残留争いしてるチーム相手にコロッと負ける印象は強かった。(過去の降格チームの対戦データを見て)あ~こりゃすごいね(苦笑)。普通、残留争いしてるようなチームとの対戦は取りこぼさないことが上位チームの鉄則なのにね、サービスしすぎでしょ。そう言えば、大宮はまだ名古屋との対戦が残ってるね。場所は豊田スタジアムか……名古屋の“鬼門”だよ。今年の名古屋は豊田スタジアムで一回も勝ってないんだ。降格決まった徳島ですら引き分けたから、こりゃなんかあるかも」
優勝争いよりも熱いとさえ言われる残留争い。今年はどんな結末を迎えるのだろうか。最終節は大宮-セレッソ、清水-甲府と“好カード”が組まれており、90分、いや、ロスタイムまで目が離せない熱戦が繰り広げられる可能性は大である。今年もJリーグは最後まで目が離せない!
<取材・文/SPA!スポーツ取材班>
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