仕事

祇園・夜の街で「お母さん」と呼ばれる女将の人情。毎晩ホステスが泣きに来る

夜遊びの「広がり」を提供

芸舞妓

芸舞妓を呼んでのイベント風景

「クラブやラウンジで遊ばはるのもええんやけど、せっかく京都の祇園に来て遊ばはるんやったら、芸舞妓さんたちとも遊んでいただきたいなって」  2階のテラス席を利用し、定期的にイベントを始めた良子さん。  季節毎に行われるそのイベントでは、コース料理を食べながら芸舞妓の踊りや弦楽器の演奏、シャンソンライブなどを楽しめる。 「春の時期やったらテラスに桜を飾ってライトアップして、それをバックに津軽三味線やニ胡(※中国の弦楽器)、シャンソンのライブをやってます。2月は『節分お化け』やね。芸舞妓さんを呼んで仮装してもらって、舞いを披露してもろうてます」  節分お化けとは、古くから京都を中心に行われていた厄払いの儀式だ。  節分の日に仮装して寺社仏閣へ参拝するものだが、京都では町おこしの一環として花街を中心に数年前から毎年行われている。  通常、「お座敷」に芸舞妓を呼ぶと数万~数十万かかるが、祇をんひつじでは食事代と花代5千円で楽しめる。演奏ライブは2ドリンクとコース料理付きの1万円。オトナの遊びとしてはリーズナブルな価格だ。 「ただ単にご飯食べて『ほな帰りますわ』でもええんやけど、祇園楽しいなぁって感じてもらいたいんよ。ライブが見れるとか芸舞妓さんが来てくれるとか、あれもこれも詰め込んだおばんざい屋です(笑)」  こうした良子さんの取り組みと心意気に触れ、常連となる経営者も多い。  提供する料理にもこだわっているという良子さんだが、信念にしているのは「変わらないこと」だ。

「祇園で生きて祇園で死ぬ」夜の街で生き抜く覚悟

桜の時期のテラス席

桜の時期のテラス席

「変わらへんっていうのも大事やと思うねん。ご飯だけじゃなくて、ウェルカム感もな。今回コロナで大変なことになって、『店手放さなあかんかも』って瞬間もあった。コロナで閉めた贔屓筋の店も多い。けど、コロナやから経営が大変やからって、特別なことはしたくないねん。いつ来ても同じで変わらへん店って、なんかホッとするやん」  新型コロナウイルスの影響で経営が追い込まれ、生き残るために経営戦略や営業形態を変えた飲食店は多い。しかし良子さんは、「周りの方々に支えられてきたからこそ、変わったらあかん」と言う。 「バタくさい言い方すると、人情やな。13年間、お客さんが店を作ってくれはった。その気持ちを思うと、裏切ったらあかんなって。ほんまは何年か前にも辞めよう思った時期があってん。辞めて違う事しよう思っててんけど、お客さんから『女将、来月○○さん連れてくるからな』って言われたり、次々予約が入ったり。神の啓示やなぁって思ったね。『今辞めたらあかんで、たかだか何十年しか商売してへんくせに』ってことやなって。せやし今回も、限界まで頑張っていこう思ってるよ」  夜の街の人生ドラマを見続けてきた女将の灯は、まだまだ消えそうにない。<取材・文/倉本菜生、写真提供/祇をんひつじ>
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0
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●祇をんひつじ
〒605-0073 京都府京都市東山区祇園町北側347祇園楽宴小路内
https://www.gionhitsujicafe.com/
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