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健常者は障がい者にどう接するべきか——トゥレット症、聴覚障がいの当事者が向き合ってきた現実とは

自分の意思に反して体が動いてしまう“トゥレット症”の酒井隆成さん。2019年、大学在学中に出演したAbema TVの番組が話題に。 以来、CBCのドキュメンタリー番組に出演し、2024年には自身初となる著書『トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由』(扶桑社刊)を出版するなど、トゥレット症の日常や経験を伝える情報発信を精力的に行っている。 一方、聴覚障がいをもつ難聴うさぎさんは、著書『音のない世界でコミュ力を磨く』(KADOKAWA)も持ち、SNS総フォロワー77万人を誇る人気YouTuber。企業と連携し「骨伝導のイヤホン型集音器」を開発したり、日本聴導犬推進協会のアンバサダーに就任するなど、活躍の幅を広げている。 今回、酒井隆成さんと難聴うさぎさんの対談を実施。障がいとの向き合い方や自己実現などについて語ってもらった。 【前回記事を読む】⇒「「昔は健常者のふりをしていた」聴覚障がい、トゥレット症ーー障がい当事者の“不自由な日常”を世間に発信し続けるワケ」はこちらへ
酒井隆成  難聴うさぎ

酒井隆成さん(写真左)と 難聴うさぎさん

「やりたい仕事はすべて挑戦した」

酒井隆成さん(以下、酒井):トゥレット症で外に出る人はまだまだ少なくて、学校に行ける人は増えているものの、バイトもできない人がたくさんいます。障がい者向けの求人サイトもありますが、トゥレット症があまり知られていないため、「体が動いちゃうんだったら商品を触るのはダメ」「勝手に声が出ちゃうんだったら接客はダメ」となんでも否定されてしまって、仕事がないんです。 難聴うさぎさん(以下、うさぎ):それでは選択肢が限られてしまいますね。 酒井:でも声が出ちゃうだけなので、「いらっしゃいませ!」と大きい声を出せば、ラーメン屋では逆にめちゃくちゃいい店員だと評価されるかもしれません。自分から提案すれば、環境を変えられる——。うさぎさんの著書を読んで、その通りだと思いました。 うさぎ:私は、やりたいアルバイトをすべてやりました。ティッシュ配りもしたし、訪問営業もしました。居酒屋などに行き、加熱式たばこをお客さんに販売するんです。髪の毛を結んで補聴器をあえて見せる。お客さんからすると、「耳の聞こえない人が頑張っているから、ちょっと試してみようかな」となるんです。 酒井:ある意味、うさぎさんの強みですね。バイトではないですけど、僕は趣味で絵を描くのが好きで、イラストレーターを目指したことがあります。パソコン上で描くんですけど、手が勝手に動くので、ペンがすぐ壊れてしまう。 1枚描き上げるのに3000円のペンが2本ダメになるので、例えば1万円で作画の依頼を受けると、収支が4000円になるんです。あまりにコストがかかるので、諦めてしまいました。 うさぎ:自分でペンをつくっちゃえば事業になりますよ。 酒井:たしかに! 破壊しようと思ってもできないペンがあったら面白い。うさぎさんと話していると、やりたいことがどんどん出てきますね。 うさぎ:基本的に不可能はないと思っています。できないことをできないと認める。そのうえで、壊してしまうのであれば、壊れないものをつくればいいだけです。 酒井:ペンって健常者の人が使いやすいようにできているから汎用性があっていいけど、僕らには使い勝手が悪い。それならば、僕らに特化してつくればいいわけですね。

日常生活で困る「意外なこと」

——ほかに日常生活などで困ることはありますか。 酒井:外に出る上での問題点を解決したうえでここにいるみたいなところがありますし、極論を言うとどうにかなってしまうんですけど、強いていえば、症状がひどいときに映画館に行けないのが苦痛です。映画は上映期間が決まっているのに、その期間にコンディションが悪いと、配信が開始されるのを待たなければならない。 うさぎ:私の場合、字幕がない映画がきついです。一応、補聴器をつけるけど、音が歪んで般若心経のように聞こえるので、映像だけでストーリーを想像しなければなりません。だから配信されるのを待つことが多いです。 酒井:確かに映画は登場人物が画面外で話していることもあるし、観ているだけではわからない部分もありますね。小さなスクリーンでいいから、障がいのある人でも最新の映画が観られる映画館があるといいのに。 うさぎ:本当ですね。 酒井:あとは、物理的なことで困ることが多いです。字を書くのが苦手だし、テーブルなどを叩いてしまうので、置いてあるモノがいつの間にか移動している。自分が想定してないところで起きる問題は、ちょくちょくあります。 うさぎ:物理的な問題だと、やっぱり電話ですね。電話がかかってきたときに周りに友だちがいれば代わってもらったりするけど、ひとりのときは困ります。知らない人に電話に出てもらったこともあります。 緊急だったので、「耳が聞こえない人が隣にいるって言ってください」「なんて言っているか教えてください」とお願いしたんです。無事、問題なく解決できました。 酒井:こういうとき、日本人はすごく優しい。 うさぎ:優しいですね。

重度訪問介護を専門とするマツノケアグループで働く酒井さん

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「日本は障がい者にとって生きやすい」
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トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由 トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由

孤独、絶望、偏見に悩みながらも、
着実に夢を叶えてきたパワフルな半生

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