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中年を襲う“痛みの地獄”──三叉神経痛から慢性疾患まで、人生を脅かす疼痛の正体

痛みが人々の暮らしに与える影響は甚大だ。慢性的な疼痛に悩む人は40、50代の中年にもっとも多いと言われ、その痛みは時に人生さえ奪う。この脅威に、我々はどう向き合えばいいのか──最新の研究事情を追った。

痛みだけではなく、痛みへの恐怖がQOLを著しく損なう

今年1月、自宅で朝食を取っていた加藤健二さん(仮名・45歳)を襲った痛みは、これまで経験したことがないものだった。 「梅干しを口にいれた瞬間に右側の奥歯に釘を打ち込まれたかのような激痛が走りました。時間にして数十秒から1分程度。最初のうちはじっと耐えていれば収まったのですが、徐々に痛みが訪れる間隔が狭まっていき、痛みが去った後も恐怖で何も考えられなくなって……かかりつけの内科に行くと『神経痛』の疑いがあると言われ、大学病院で検査したところ、三叉神経痛と診断されました」 三叉神経とは脳幹から顔につながる神経で、三叉神経痛は顔面に激しい痛みを伴うとされる。医師から提示された治療法は苛烈を極めた。 「薬物治療、神経ブロック注射、頭部切開による手術の3つの治療法があると聞かされ、事の重大さに気づきました。高血圧、動脈硬化の人が患いやすい神経痛なのだと。とりあえず薬物治療を選択し、抗てんかん薬や降圧剤を飲むと強烈な痛みこそ減っていったのですが、今度は突然高熱に襲われ、体中に赤い発疹が出たのです。医師からは『重度の薬疹で最悪、死を招く』と説明を受け、入院を要請されました」
最新[中年を襲う痛み]研究

激痛に加え、重度の薬疹に悩まされた加藤さん。「痛みが怖くて水も飲めなかった。今でも肌寒い日は生きた心地がしません」

抗てんかん薬の服用をやめ、ステロイド剤に切り替えると発疹は収まり、暖かくなるにつれて痛みの発作は出なくなった。だが、加藤さんの表情は一向に冴えない。 「三叉神経痛は寒い季節に出やすい症状らしく、今は沈静化しましたが、いつまたあの激痛に襲われるか、怖いのです。ものを食べるとき、何か飲むたびに恐怖がよぎる」 最新[中年を襲う痛み]研究

「死よりも痛みが怖い」術後に感じた医療の限界

三叉神経痛に苛まれた加藤さん同様、猛烈な神経痛に突如襲われた経験を持つ個人投資家の羽田信二さん(仮名・52歳)。彼の場合は、心臓腫瘍だった。 「友人と焼き鳥屋で飲んでいたとき、巨人に胸を踏みつぶされたような痛みに襲われ救急車で運ばれました。心臓の腫瘍が大きくなり、神経を圧迫して痛みとなって出現したのです。すぐに緊急手術となり、10時間に及ぶ大手術の結果、無事腫瘍は取り除かれたのですが、問題はこの後からでした」
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楽しかった酒の席が一転、修羅場と化した羽田さん。「死を覚悟したがそれを凌駕する痛みでした」

地獄は麻酔から覚めた瞬間に訪れた。術後は強力な鎮痛剤のオピオイドを投与されていたにもかかわらず、まったく効かなかった。 「重い痛みが永遠に続く気がして、死への恐怖すら打ち消すほどでした。ナースコールを連打しても、医師も看護師も同情はしてくれど痛み対策は何もしてくれなかった。ここに日本の医療制度の限界を感じました」
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当時のメモ書き

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20代後半から30年近くも慢性疼痛に苦しめられた女性
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