「100球制限の壁」松坂大輔はガラパゴスなのか?
現地時間6月21日、ケガから復帰後3戦目の松坂大輔はマーリンズ戦の先発マウンドにいた。そして彼の投球を見ていた時、ふとこの言葉が頭をよぎった。
NANO編集部>
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“生物の世界では、最も強い者が生き残るとは限らない。最も賢い者が生き延びるとも限らない。たったひとつ生き残るものがあるとすれば、それは、変化に対応できる者である”
『種の起源』を著したチャールズ・ダーウィンのあまりにも有名な言葉だ。
◆初回33球、3失点
この日、松坂は初回だけで33球を投じ3失点を喫した。
相変わらずの立ち上がりの悪さ、四球が失点につながった制球の悪さに、監督のボビー・バレンタインは初回にも関わらず、控え投手に準備を命じたほどだった。その後、2回以降は立ち直りを見せ、6回1死からジャンカルロ・スタントンに被弾するまで、14者連続で打者をアウトに仕留めたのは、さすが松坂。しかし、初回の乱調が響き、投球数が101球に達したここで降板。野茂英雄(123勝)、大家友和(51勝)に続く、日本人3人目となるMLB通算50勝は、この日もお預けとなってしまった。
日本では、150球くらい涼しい顔して平気で投げていた松坂大輔。メジャーの「100球制限の壁」がなければ、その後も尻あがりに調子を上げ、8回、9回まで投げきった可能性もあろう。そうすれば勝ち星が転がり込むケースも増える。皮肉にも、8回裏、レッドソックスは逆転した。
松坂の後半にエンジンが掛かる傾向はこの日に限った話ではない。復帰2戦目(15日)の前回登板のカブス戦然り。序盤に4四死球、3失点を許すも3回以降は立ち直った。しかし時すでに遅し――。
トミー・ジョン手術から復帰後の3登板で、先発投手の最低の目安とされる6回を投了したのはこの2戦目のみ。「好投した」と日本では評価された5日の復帰第1戦ですら、5回で降板した際にはすでに80球を投じており、地元紙『ボストン・グローブ』からは「相変わらず球数が多い。こんな投手は要らない」と酷評されていた。メジャーの「先発投手は100球+αまで」という起用方法に懐疑を抱く識者は少なくない。
投手の肉体的な許容投球数には個人差があるはずで、130球くらい投げても何の問題もない投手も(またその逆も)いて当然だ。近い将来、多くの投球数や長いイニングを投げられる投手は、高評価と報酬を得るーー医学の進歩と共に、そんな時代は間違いなくやって来る。そうなれば松坂大輔は、今よりもっと高く評価されるだろう。しかし、残念なことに、現在のメジャー・リーグはそうではない。
◆「肩」=「投資対象」
現代のMLBは、球団経営から見た際の「投資対象」となる「投手の肩の消耗」を防ぐ観点から、画一的に一定の球数で降板させられてしまう。渡米6年目ともなる松坂大輔は、この点を嫌というほど理解しているはずだ。ともかく球数を減らさねばなるまい。しかし、渡米初年度の2007年から、この点に関しては全く進歩していない。
誤解を恐れず言えば、松坂は、日本野球からアメリカ野球への環境の変化に適応できないまま、6年契約を終えてしまうのかもしれない。松坂は、日本野球という「国際的に見ると特殊な環境」のなかで、「普遍性のない進化を遂げてしまったガラパゴス」と言わざるを得ないのだ。おりしもホワイトソックスは、先ごろ福留孝介のリリースを発表した。このままだと、レッドソックスも今季が6年契約の最終年に当たる松坂の契約を途中で……なんてことが起きないとも限らない。
松坂は「ガラパゴス」だったのか?
証明できる唯一の手段は、投球スタイルを変化させるほかない。
【参考成績】
・西武時代の8年間(’99~’06) 108勝60敗 防2.95
・ボストンの6年間(’07~’12) 49勝32敗 防4.30
【復帰後の登板内容】
投回/安/失/責/四/振/本/防
6/21 vs.MIA 球数101(ストライク70) 5.1/4/4 /4 /1/4/1/6.06
6/15 vs.CHC 球数 93(ストライク62) 6.0/4/3/3/3/3/0/5.73
6/09 vs.WAS 球数 80(ストライク52) 5.0/5/4/4/1/8/1/7.20
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