全米で議論沸騰!【R・クレメンス50歳で現役復帰】の舞台裏<後編>
現役時代の薬物使用(ステロイド)疑惑が絶えない、サイ・ヤング賞7回、史上最高の投手ロジャー・クレメンス(50)が、米独立リーグ「シュガーランド・スキーターズ」で5年ぶりの現役復帰を果たした。スタンドには7,724人のファンが詰めかけ、チケットは完売。先発したクレメンスは3回1/3、打者11人を1安打無四球に抑え、格の違いを見せつけたのだが……。
◆殿堂入り投票はシーズンオフの目玉行事
米国球界がシーズンオフに賑わう公式行事のひとつに、12月に投票、翌年1月に発表される野球殿堂(以下HOF)の記者投票がある。アメフト、バスケ、ホッケーが真っ盛りの年末年始、野球ネタはHOF投票とウィンター・ミーティングしかない。それ故に毎年、野球ファンには大きな話題を提供してくれる恒例行事なのだ。
1月の発表から半年後、野球シーズンど真ん中の7月に表彰式が行われるHOF記者投票では、ここ数年、明確に「ステロイド疑惑者」への投票が避けられる傾向が見られる。1998年、ロジャー・マリスのシーズン61本塁打のメジャー記録を大幅に更新する70本塁打を放ったマーク・マグワイアが、有資格以降3年を経ても得票を伸ばせていないのは、その典型だろう。
記者投票での75%以上の獲得がHOFへの条件である以上、HOFは野球記者の判断に寄るところが非常に大きい。しかし時代の流れと共に移ろうのは人の心。昨年あたりから、徐々にではあるが、変化も見られている。「薬物使用をルール上禁じていなかった90年代後半の選手たちを、現代のドーピング規則に当てはめて咎めるのはいかがなものか?」という論調だ。
過去の行為について、誰がシロで誰がクロかを立証できない以上「薬物使用プレイヤーが氾濫したのもメジャーの歴史の一部」と受け入れ、「その時代における各選手が刻んだ記録の傑出度で評価すべき」という考え方が、徐々に拡大し始めているのである。
◆5年間の先送りが意味する可能性とは?
今回の独立リーグでの復帰劇が、メジャー復帰への第一歩と(仮にクレメンスが)決めているならば、2018年には「容認派」が多数を占めるようになっているかもしれない。仮にそこまで状況が変化せずとも、ルールで決まっている「最初のノミネートイヤーから数えて投票の対象期間は最長15年間」という可能性を、より「寛容な時代」にアラインさせることには間違いない。
復帰マウンドから一夜が明け、現地アメリカでは様々なメディアが大々的にクレメンス復帰を報じた。本人も「昨日は素敵な体験だった。(友人である独立リーグの)監督には御礼の電話をかけるよ。次の登板?あるかどうかは分からないよ」と何とも微妙なコメントを発表した。
おりしも昨日は、1969年に初めて月に降り立ったアームストロング船長が亡くなった日。「人類にとっての大きな一歩」を刻んだリアル・アイドルを失ったアメリカは、ドーピングとスポーツという大きな社会問題とどう向き合っていくのか。ドーピング・ボーイズと呼ばれるクレメンスの動向は、これからも日刊SPA!で定期的にレポート予定だ(完)
<取材・文/NANO編集部>
海外サッカーやメジャーリーグのみならず、自転車やテニス、はたまたマラソン大会まで、国内外のスポーツマーケティングに幅広く精通しているクリエイティブ集団。「日刊SPA!」ではメジャー(MLB)・プロ野球(NPB)に関するコラム・速報記事を担当。
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