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金満・ヤンキースが「ドケチ」に方向転換

 ニューヨーク・ヤンキースと言えば、ワールドシリーズで過去27回も優勝を遂げている名門チームとして有名であるのと同じぐらい、法外な年俸で片っ端からスター選手を獲得する金満球団としても知られている。(つまり日本で言えば讀賣巨人軍のように愛され、かつ憎まれているということだ)  そのヤンキースが“節約する”と公言した。その理由は、他の弱小球団のように単にお金がないとか、ニューヨーク・メッツのようにオーナーが金銭トラブルに巻き込まれたとかではない。  メジャーリーグでは、人気球団ほど観客動員、放映権や広告料、ロゴの使用料などからの収入は大きく、お金があれば人気選手を集めることができ、チームは強くなり、さらに人気と収入は増える。それではいつまでたっても、小さな都市の新参チームが大都市の伝統あるチームと互角に戦うことはできず、結果として試合は面白くなくなる。もっと収入を分け合う方策はないのか、と考えられてきた。  その方策の1つがラグジュアリー・タックスと呼ばれる制度(「贅沢税」と言っても政府に支払う税金とは全く関係ない)。各球団が前年に選手へ支払った給与総額を元に、ある一定の額以上を選手への給与として支払ったチームは、その超過額に見合う金額を「ラグジュアリー・タックス」として供出しなければならない(そのお金は、選手の福利厚生のための基金などに使われる)。  2014年度の「贅沢税」を支払わなくてよい上限が1億8,900万ドル(約180億円)。そこで、ヤンキースのマネージング・ジェネラル・パートナーであるハル・スタインブレナー氏(ヤンキースの名物オーナーだった故ジョージ・スタインブレナー氏の息子)が贅沢税を払わなくて済むよう給与総額を1億8,900万ドル以下に抑えるように指令を出した。ヤンキースはこれまでずっと全球団中最高クラスの年俸で、毎年高額な「贅沢税」を払い続けてきたが、年俸を抑えることに成功すれば、報奨金としてこれまでの供出金を返金してもらえる可能性もあるのだ。  2013年にヤンキースが選手たちに支払う年俸は総額2億768万5千ドル(約200億円)で、ロサンゼルス・ドジャーズの2億1,301万ドルに次いで2番目。
ヒューストン・アストロズ

”最弱”といわれるヒューストン・アストロズのチームの年俸総額は、A・ロッド1人の1年の年俸総額より低い

 2014年以降は、アレックス・ロドリゲス選手の今後5年間で1億1,400万ドルを筆頭に、マーク・テシェイラ選手、C.C. サバシア投手らもまだ契約が残っている。また、先日WBCでMVPとなったロビンソン・カノ二塁手の契約は今季までなので、彼を失いたくなければかなりの金額の複数年契約が必要となる。  節約の兆しなのか、ヤンキースは昨季活躍したラッセル・マーティン捕手やニック・スウィッシャー選手と契約を更新せず(それぞれピッツバーグ・パイレーツとクリーブランド・インディアンスに移籍)、しかもシーズンを前にカーティス・グランダーソン選手やテシェイラ選手がケガをしたのに、例年のように大慌てで、高いお金を払い、外から選手を補充する、ということはしていない。  この動きに対し、“オーナーたちはヤンキースを売却する気ではないか”との噂も出ているが、スタインブレナー氏は否定している。彼が言うには、2001年以降、最高年俸でワールドシリーズ優勝を遂げたのは2009年のヤンキースだけ、という現実も節約を決めた大きな理由だそう。  昨年、給与総額がトップだったヤンキースはレギュラーシーズン95勝67敗、アメリカン・リーグ1位でプレーオフに進出したが、給与総額が2番目、1億7,500万ドルだったフィラデルフィア・フィリーズは81勝81敗、1億7,300万ドルで3番目だったボストン・レッドソックスは69勝93敗という惨憺たる成績でプレーオフ進出さえ叶わず。ワールドシリーズ優勝を遂げたサンフランシスコ・ジャイアンツは1億1,800万ドルで8番目。プレーオフ進出10チーム中、ちょうど半分の5チームが給与総額上位15チームに入り、残り5チームは下位15チームに入っていた。つまり、高いお金を払えば、必ずしも強いチームができるわけではないのだ。  それでも1991年から2000年までの10年間を見れば、給料総額の最も高いチームが5度ワールドシリーズ優勝を果たしている(1992&1993年トロント・ブルージェイズ、1996&1999&2000年ヤンキース)。しかし、2001年以降では、最高年俸で優勝を果たしたのは2009年ヤンキースのみ。映画「マネーボール」でブラッド・ピットが演じた、低予算で強いチームを作り上げたオークランド・アスレチックスのビリー・ビーン氏がゼネラル・マネジャーに就任したのが1997年。その頃から、メジャーリーグは「カネを払えば強いチームが作れる」から、「カネを払わなくても強いチームは作れる」方向に徐々にシフトチェンジしてきた。  またMLBは、チーム格差是正のためヤンキースをはじめとする金満球団の給与総額を抑える工夫をしていて、例えば今年ならヤンキースの「贅沢税率」は50%。つまり許容限度1億7,800万ドルの超過分の半額にあたる1,900万ドルを支払う。しかし来年度、ヤンキースが基準額を超過しなければ、「贅沢税」を払わなくて良いだけでなく、2015年の「贅沢税率」が現在の50%から17.5%にまで引き下げられ、さらにこれまでの供出金の中から報奨金ももらえるのだ。  さて、ヤンキースは今年、年間給与総額1億8,900万ドルという「節約」と、ワールドリーズ優勝という2つの目的を同時に達成することができるのだろうか。 <取材・文/NANO編集部> 海外サッカーやメジャーリーグのみならず、自転車やテニス、はたまたマラソン大会まで、国内外のスポーツマーケティングに幅広く精通しているクリエイティブ集団
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