「本店巡礼」は、「食」の原点に立ち返る旅である
―[本店巡礼]―
基本的に食材はセントラルキッチンで調理され、全国の店舗に送られるため全国どこでも同じ味を楽しめる「チェーン店」。そんなチェーン店でもオンリーワンな店舗がある。それは「本店」もしくは「一号店」だ。全国津々浦々の「本店」(一号店)を制覇してきた「本店道」開祖、BUBBLE-B氏が推す「この夏、ここだけは行っておきたい本店」ベスト5とは? 4位までは前編をチェックしていただき、後編ではいよいよトップ2の発表、及び本店道哲学を聞いてみよう。
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◆第2位
びっくりドンキーのルーツ「ベル」大通店(岩手県)
「僕は自他共に認める”びくド(びっくりドンキー)好き”なんですが、それゆえ外せないのが、『びっくりドンキー』のルーツとして岩手県盛岡で1968年に創業された『ベル』です。盛岡で6店舗を擁しチェーン展開したベルですが、その後創業者である庄司昭夫氏が北海道で1980年に『ドナルドダック』という店を開業。こちらも大成功して、その後『びっくりドンキー』に改名して全国展開するようになるんです。『ベル』は大通店現在ではこの1店舗を残すのみになり。メニューも、『びっくりドンキー』と共通となっていますが、びくド好きは聖地として訪れるほどです」
今では、メニューも『びっくりドンキー』と共通でセントラルキッチンから送られてくるようになったが、いまだに『ベル』として営業を続けるこの店舗には、他にはない「創業者の想い」があるという。
「メニューの内容は『びっくりドンキー』ですが、箸袋やおしぼりなどもすべて今もなお『ベル』のロゴで統一されており、ルーツ店としてのプライドを感じました。また、インテリアもびっくりドンキーはアメリカンな雰囲気ですが、ベルはホラーな洋館風と独特です。さらに、この1号店の面白いところは、隣の民家を買収して壁をぶち抜いてつながっているので、畳の座敷席があるところです」(同)
それだけではない。創業店としての誇りは、従業員にも伝わっている。
「なんと、創業時に店長だった方がドアマンをやっているんです(平日のみ・2013年7月現在)。チェーン店というイメージを大きく変える店であることは間違いありません」
【おすすめメニュー】チーズバーグディッシュ
◆第1位
吉野家 築地店(東京都)
「歴史、国内外への展開、知名度ともにキングオブチェーン店です。この築地市場の場内にある築地店は、床は御影石、制服は作務衣など、細部まで”創業店”としてのこだわりがみえます。主なお客も築地で働く食のプロたちが相手。メニューも牛丼と牛皿に特化し、他店舗とは雰囲気が異なります。さらに、他店舗では通用しない『ネギだくだく』や『あたま』など、細かい注文にも対応します。また、店長が凄い。常連客がほとんどなので、500人を超える顔と注文内容を覚え、お客さんによっては入店時点でいつものカスタマイズで作り出すので、驚異的にスピーディーです」(同)
1号店としてのプライド、伝統を守り抜く姿勢はBSE騒動のときにもみられた。
「アメリカ産牛肉の輸入が止まった時期、他店舗では豚丼に切り替えて提供していました。しかし、1号店だけは国産牛肉を仕入れて牛丼を提供し続けました。並500円と割高にはなりましたが、おいしかったです。吉野家の広報に、なぜそこまでして牛丼にこだわるのか問い合わせたところ、『それは魂だから。吉野家本店が牛丼を切らすわけにはいかない』という回答をいただき、感服しました」(同)
1899年に日本橋で創業した吉野家は、関東大震災後の1926年、築地場内に1号店を構えた。築地市場の営業時間に合わせて朝の5時から昼1時までの営業で、丼ものは牛丼のみという牛丼一筋ぶりをみせている……。
【おすすめメニュー】牛丼
以上、BUBBLE-B氏がこれまで全国の本店を巡ったなかで、特にオススメの5店を紹介した。共通することは「本店はやっぱ特別にウマい!」と氏が感じたこと。なかには、「他の店舗と別に変わらない」と思う本店もあるそうだが、おいしく感じる本店の特徴は「『発祥の地』という看板が出ていたり、創業時の苦労話を知ったりすると、ありがたみが出ておいしく感じます。積み重ねられた歴史や、創業者の熱い思いが活きているような空気は大事」とのこと。
そもそも、本店巡りをはじめたのだろうか?
「学生時代に、京都にある天下一品の北白川総本店でラーメンを食べたことがキッカケです。スープが濃厚で、明らかに味が違うんです。ただし、店のスタンスとしては同じだと。もしかしたら本店だけ別食材やレシピなのかもしれませんが、それは分かりません。他の本店に行った時も、”何かが違う”と感じる店があった。それは思い込みなのかもしれないけど、そう思い込ませる”何か”があるんです。そこに惹かれて本店巡礼の旅を誰にも頼まれていないのに始めました」
それから9年間、本店巡りを続けてきたBUBBLE-B氏。彼は、本店巡りの魅力を「『食べるとは何か』を考えなおすキッカケ」と語る。
「チェーン店は、郊外のロードサイドに並んで建っていて、どこの地方でも同じ風景だと、批判されることも多い存在だと思います。また、注文して料理が出てお金を払って帰る、という機械的なやりとりも、人間らしいあたたかみの入る余地がない。ところが、本店に行くと、創業当時の雰囲気や物語に触れることで、つくっている人の顔がみえてきて愛着が湧きます。一杯の牛丼にも、創業の地が培われた商品やサービスの遺伝子が詰まっているんだと感じて食べれば、いつものメニューもおいしく食べられるようになるんです!」
この夏、BUBBLE-B氏は、自身のブログをまとめた単行本『全国飲食チェーン本店巡礼~ルーツをめぐる旅~』を上梓した。同書では、本記事で紹介した店舗以外にもさまざまな「本店」「一号店」を紹介している。この夏、身近なチェーン店の本店を訪ね、いつもとは違う(と思える)味に出会ってみてはいかがだろうか。
【BUBBLE-B】
1976年、京都府生まれ、滋賀県育ち。テクノミュージシャン、DJとしても活躍。本店評論家としてもラジオ・テレビへの出演など注目を集める。2004年頃、本店巡礼に目覚めブログ「本店の旅」を開設。ブログの内容を大幅に加筆・修正・最新情報を盛り込んだ単行本「全国飲食チェーン本店巡礼~ルーツをめぐる旅~」が好評発売中。
●「本店巡礼」出版記念トーク&サイン会
場所:阿佐ヶ谷Loft A
日時:8月22日(木)18:00開場 19:00開演
前売り:1,600円 当日:2,000円(イープラスにて発売中) 出演:BUBBLE-B、編集スタッフ ゲスト:中村義昭 (吉野家 築地一号店 店長)、西尾明 (あじわい回転寿司 禅 店長) http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/17360 ●ブログ「本店の旅」http://blog.livedoor.jp/hontennotabi/ <取材・文・撮影/林健太>
『全国飲食チェーン本店巡礼~ルーツをめぐる旅~』 全国展開の第一歩を巡る旅 |
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