ビジネス視点から考える“復興”と“フードイベント”
◆梅田で開催中!「東北わくわくマルシェ」
現在、大阪・西梅田スクエアで「東北わくわくマルシェ」が開催されている。岩手・宮城・福島の企業約200社が出店し、1500点もの東北の特産品&グルメを販売。また、イートインコーナーには、地元人気店が出店し、ランチタイムや週末は行列のできる盛況っぷりだ。
東北から関西の人たちへ復興支援へ感謝のイベントであり、同時に、関西の人が食べて楽しんで東北を支援するという双方向でのコミュニケーションの場となっているわけだが、エコノミストの飯田泰之氏は「“ビジネス”という視点でもおもしろい試み」と指摘する。飯田氏がイベントを主催する公益社団法人ソーシャル・サイエンス・ラボ理事の川井徳子氏に話を聞いた。
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飯田:今回の「東北わくわくマルシェ」は、関西での開催という点にまずは大きな意義があると思います。関東圏と違って関西ではまだまだ東北のブランド力も弱い。関西の人に「東北のもの、おいしいじゃないか!」と思ってもらえるのは大きい。
川井:そうですね。例えば、関西ではワカメと言えば鳴門ですし、カキといえば広島です。震災以降、関西の魚市場も支援にもなるからできるだけ東北のものを入れていたというのですが、やはり西の人がどれだけ東北の食材を知っているのか?というと、まだまだですよね。私自身、支援で東北に行き、地元で食べたイカの煮物のおいしさに驚いたのですが、新鮮なお魚の味の違いに驚きました。
飯田:食文化の違いを交流によって知るというのは、出店者側にもメリットがあります。例えば、東北は味の濃いものでご飯をたくさん食べる。ごはんとおかずの量の比率が、他の地域と全然違うんですよね。こうした視点は復興ツーリズムを展開していく上でも、あるいは、六次産業化(第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態)を進めていくうえでも欠かせないポイントです。あと、こうしたイベントに関しては、あまり例のない長期間開催というところも、僕は重要だと思うんです。
川井:第一部と第二部、その間に行われる、岩手県商工会連合会さん主催の「おおさか⇔いわて じぇじぇじぇマルシェ」を入れると72日間の開催となります。
飯田:ほぼ3か月ですよね。これだけの長期開催ならば、口コミからの広がりやリピーターも十分期待できます。よくある数日から2週間程度のイベントだと、評判を聞いて「行きたい!」と思ったのに会期終了ということも少なくない。また、出店業者さんの横のつながりができるんじゃないかな。別の業態、別の地域のやり取りを見れるメリットもありますし、もう一歩進んで商材のやり取りをする仲にまでなれたら、もっとおもしろいと思います。
川井:参加業者さんは皆さん忙しくて、なかなかほかのお店を見に行く時間がとれていないようなので、そこをどうコーディネイトするかは課題ですね。
飯田:長期間だと価格が適正なのか? お客さんにとってちょうどいい量はどのくらいなのか? などを試行錯誤できるというメリットもある。全体的に「そんなにサービスしなくてもいいのに」って思ってしまう安価な価格設定ですが(笑)。
川井 関西はデフレが厳しいのはあるのですが、安ければいいというものでもなくて。例えば、海鮮丼などは、同じ食材を使いつつも周りと値段をすり合わせると、お客さんの目を引かなくなってしまう。中途半端な値段はダメだとわかりました。
飯田:一方で、モノによってはポ―ションを小さくして価格を安くして回転させる、というのもひとつの方法ですし、あるいは、場所がオフィス街ですから、ランチはメニューの種類を下げて回転をあげるとか、夜はむしろポ―ションを落として単価も下げつつ、ビールの売り上げを狙うとか、いろいろ試せそうです。
川井:その意味もあって、イートインスペースはなんとしてもやりたかったんです。実はこのプロジェクトはもともとは、半年間の期間限定で東北のアンテナショップをオープンしようというものだったんですよ。
飯田:ずいぶん、話がデカくなったんですね(笑)。
川井:苦労してます(笑)。でも、とてもいい場所を借りられることになりましたので。大阪の方はご存じでしょうけれど、この「わくわくマルシェ」を開催している西梅田スクエアって、もともとは旧大阪中央郵便局の跡地で、梅田のど真ん中。梅田って、日本で新宿・渋谷に次いで3番目に乗降客が多く、1日に300万人が出入りしているんですよ。
飯田:すごいですね。その1%の人が来てくれれば、3万人だ(笑)。
川井:0.0数%でいいんです(笑)。1日1000人、来てくださっただけですごい数ですから。さらに、このエリアは「梅田北ヤード」と呼ばれる再開発が進められていて、大阪だけでなく関西経済圏全体の耳目が集まっているところです。復興も第二フェーズ――中小企業の成長経路を示すお手伝いの場面に入りました。そうしたところでイベントをやる以上、次に活きるビジネスモデルにしようって考えたんです。
だから、「東北わくわくマルシェ」では、関西大学社会連携部の先生にご協力いただいて、イベントに関する詳細なデータを収集しているんです。日報としても、何時から何がどう売れたのか? 何をやったから数字をあげたのかといった記録もしているんです。日本郵政さんも、今後のビル開発について、このイベントの動向を期待してくださっています。このイベントは社会開発という実験でもあるんです。
飯田:研究開発というとすぐに理系的な実験を思い浮かべると思いますが、こうした実験もあるんですよね。都市部ではよくラーメンフェア、カレーフェアなどが開催されていますが、通常は数日から長くて2週間。ちょっと期間を長くしてみると、こんなおもしろい取り組みになるというのを「東北わくわくマルシェ」が提示できるといいですね。
川井:同時にもうひとつ、この事業の底流にあるのが、「相聞往来」という考え方なんです。関西の人が東北に支援に行く、今回、東北の方が関西に来る。互いに行ったり来たりを重ねることで交流がおこり、それが絆になっていくんじゃないかなって。私自身、岩手に通うようになり、宮沢賢治の魅力を再発見したんです。「わくわくマルシェ」に来た方が、「東北行ってみようか」と思ってくださったら素敵だなって。
飯田:人が往来して、モノも往来する。そして、認識が変わるというのは重要ですよね。復興支援という視点だけでなく、街づくりに携わる人は一度、「わくわく復興マルシェ」に来てみるといいと思いますよ。
●『東北わくわくマルシェ』(http://t-fukko.net/)
期間/第一部:2014年1月7日(火)まで(12/21.1/1は休業)、第二部:1月19日~2月23日
場所/西梅田スクエア(旧大阪中央郵便局跡地)http://jp-nishiumeda-square.jp/
営業時間/11時~22時(イートインのラストオーダー21時30分)
入場無料
●川井徳子(http://kawai.noblesse-g.co.jp/)
1958年、奈良県生まれ。不動産業、観光業、IT・デザインなど5つの会社を束ねるノブレスグループの代表。社団法人ソーシャル・サイエンス・ラボ理事長。東日本大震災直後に、飯田とともに岩手県に視察に入り、以降、継続的に支援事業を続ける。著書に『不動産は「物語力」で再生する』
●飯田泰之(http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/)
1975年、東京生まれ。明治大学准教授。エコノミスト。週刊SPA!にて評論家の荻上チキ氏とともに「週刊チキーーダ!」を連載。著書に『考える技術としての統計学』『経済は損得で理解しろ!』『飯田のミクロ』、共著に『ダメな議論』『夜の経済学』など。出演番組に『モーニングバード』『Nスタ』など。
<撮影/土方剛史 構成/鈴木靖子>
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