バンドと歯科医師 “二足のわらじ”には何かの犠牲が必要――プログレバンド「KENSO」清水義央インタビュー【3】

清水義央氏

白衣でライブをする清水義央氏

KENSO(ケンソー)――コアな音楽ファンから長らく支持されてきた、日本屈指のプログレッシブ・ロックバンドが、この7月に8年ぶりのニューアルバムをリリースした。結成以来40年間、このバンドを率いてきたリーダーでありギタリストの清水義央氏は、実は現役の歯科医師という横顔も持つ。ミュージシャンと歯科医師というユニークな“二足のワラジ”生活を続けてきた清水氏に、40周年を迎えたKENSOや自身の活動を振り返ってもらいつつ、「何かを両立するための極意」という視点から話を聞いた。

後編となる今回は、“二足のワラジ”生活を続けるために必要な覚悟などについて語ってもらった。

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――いまさらなんですが、KENSOってどんなバンドですか? 今回のインタビューで、初めてKENSOの存在を知る若い読者も多いと思います。

清水:えーと……難しいなぁ。簡単に言ってしまうと、インストが中心のプログレッシブ・ロックバンド。でも、これじゃ何の説明にもなっていませんね。よく「暗い」と言われたりもしますが、明るい曲もあります。前回話したけど、学生時代に「ネクラ」と揶揄されたトラウマがあって、「暗い」という言葉には30年以上経ったいまでも敏感に反応してしまうんです(苦笑)。

 70年代ロックに強い影響を受けたバンド……といっても、70年代ロックがいまの若い人にはわからないもんねぇ。ひと言で説明するのはなかなか厳しいけど、KENSOの音楽は、ロックをベースに、クラッシックやジャズ、民族音楽などいろいろなジャンルの要素を採り入れたミクスチャーミュージックという感じでしょうか。

 実は先日、メンバーが女のコだけの学生バンドと一緒に演奏する機会があったんです。カバー曲で、僕は詳しくは知らない曲だったんですが、確かにロックでしか表現できないような歌詞やギターのカッティングがあったりして、「ああ、彼女たちもロックに支えられて生きているんだな」とシンパシーを感じることができたんですね。親子ほど年の離れた彼女たちとどこか通じ合う感覚が持てたということは、いま僕がやっている音楽を若い人が聴いて、何か感じてくれるところがあるのかな、とも思えたんです。ということで、ぜひKENSOを聴いてみてください(笑)。

――それにしても、音楽と歯科医を両立するには、相当なセルマネジメント力が必要ではないでしょうか?

清水:どうだろう……僕は、わりと無茶苦茶なことをしていると思いますよ。系統立ててアドバイスできるような、汎用性のあるセルフマネジメント技術は持っていませんね。まずは、歯科医の仕事と音楽以外、一般的な楽しみを全部捨てる覚悟を持つところから始まります(笑)。まあ、結婚して子どもができてからは家庭も大事にしてきたけど、それでも多少は犠牲にしたところがあると思う。結局、“二足のワラジ”を実現するには、何かを削るしかない。僕の場合は睡眠時間を削りました。オススメはできない方法だけど、単純に時間が足りなくなるから、睡眠時間を削るしかないんですよね。

 そのかわり、自分に必要な最低限の睡眠時間はどのくらいなのか、けっこう検証を重ねましたね。1時間、1時間15分、1時間30分……という具合に、15分刻みで目覚ましをかける時間を変えて、どのくらい寝ればとりあえず大丈夫かを把握するようにしたり。いまは、最低3時間半くらい寝れば、ひとまず何とかなる感じですね。それでも、制作が立て込んだりすると徹夜してしまうようなことはありますけど。

――歯科医の仕事も忙しいですよね?

清水:そうですね。日々の診療のほか、僕は地域の小学校、幼稚園、保育園の歯科校医・園医もしているので。それ以外にも、地元の歯科医師会の仕事やお付き合いもあったりします。正直、歯科医師会の仕事はずっと避けてきたのですが、さすがにいつまでも誤魔化してはいられないので、役員を引き受けたりもしましたね。

――歯科医同士のお付き合いとかもあるんですよね?

清水:ええ。でも、僕は最低限のお付き合いしかしませんね。若いころは「清水は付き合いが悪い」と批判されることも少なからずありました。それで時折、先輩に引っ張られるようにして飲みに行ったりもしたのですが、座っただけで何万円、ちょっと飲んだだけで何十万円も取られるようなキャバレーみたいなところに連れていかれたりして、本当に居心地が悪かった。いくら先輩のおごりでも、その金額がバカバカしくて。「うわっ、そのお金があったら、あんな機材やこんなギターが買えるじゃん!」と考えてしまって。キレイな女のコが横に座って、いろいろ話しかけてくれても「あー早く帰りたい」「家で好きな音楽を聴いて、ギターを弾きたい」なんてことばかり考えてしまう。

――ぜんぜん楽しくないですね。

清水:はい、むしろ苦行です。あと困るのが、カラオケ。僕、歌は苦手なんです。音楽をやっているからこそ、自分の下手さかげんは重々理解している。だから、先輩から「何か歌え」としつこく言われても固辞してきたのですが、一度、どうしても断れない状況になってしまったことがあって。その時は、店にギターがあったので「歌わないかわりにギターを弾くので勘弁してください」ということで、ひとまず納得してもらいました。それで、ビートルズのBlackbirdを弾いたのですが、女のコなんてドン引きでしたよ。

 そんなことを繰り返しているうちに、「清水はこういうヤツ」と、周囲が諦めてくれるようになったんです。「清水はバンドとかで忙しいらしい」「清水はちょっと変わり者」みたいな印象を持ってもらってからは、ずいぶん楽になりましたね。

――周囲に、いい意味で諦めてもらうと。

清水:そんな感じです。他に優先したいこと、専念したいことがあるなら、積極的に「変なヤツ」の枠に入ってしまうほうが楽です。自分の仕事とか、任された役割については、キッチリとこなす。そのかわり、それ以外については好きにやらせてもらいます、と強く意志表示するべき。下手に八方美人的に振る舞ったり、中途半端に付き合いをよくしても、ろくなことになりませんよ。最初は多少イヤな思いをしたり、誤解されたりもするけど、「アイツは変わり者」と周囲に思ってもらえるほうが勝ちです。転じて、“二足のワラジ”を履くのであれば、ときには他の人から疎まれたり、誤解されたりすることを甘受する覚悟を持たないと、やっていけないと考えます。

 とはいうものの、支持してくれる人から批判的な人まで、すべてを含めた周囲の人がいてくれるからこそ、自分の好きなことができるのも、また事実。キレイごとのように聞こえるかもしれないけど、周囲に対する感謝の気持ちだけは忘れてはならないと思いますね。とくに、苦言を呈してくれたり、言いづらいことを指摘してくれるような友人は、本当に大切にしなければならない。そしてその友人のため、自分にできることがあるなら、骨惜しみせずに全力で尽くしてあげてください。

 最後にちょっと説教くさくなりましたけど、これもまた、40年間好きなバンドを続けてきたからこそ気づくことができた真理だと思うんですよね。

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【プロフィール】
清水義央(しみず・よしひさ)
1957年、神奈川県生まれ。医学博士。1974年、高校在学中にプログレッシブ・ロックバンドKENSOを結成。以来、同バンドのリーダー、メインコンポーザー、ギタリストとして活躍。KENSOは内外のプログレファンに高く評価されており、海外でのライブ経験も持つ。ミュージシャンとして息の長い活動を続ける一方、現役の歯科医として診療に従事。横浜市にある自身の歯科医院で院長を務めている。

●KENSOニューアルバム『内ナル声ニ回帰セヨ』好評発売中

●2014年8月17日(日)、新作リリース&結成40周年記念ライブ開催!
川崎CLUB CITTA’にて、16:30開場、17:30開演。
詳しくはこちら http://www1.u-netsurf.ne.jp/~kenso/live/live201408.html

取材・文/漆原直行

内ナル声ニ回帰セヨ

祝・結成40周年!

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