トーンの使い過ぎで画面が死ぬ!? 昭和のマンガ指導が痛烈すぎる――マンガの描き方本の歴史3
『帽子男シリーズ』や『ギャグにもほどがある』など、作品ごとに惜しげなくアイデアを使い捨てるリサイクル精神ゼロのギャグ漫画家・上野顕太郎氏。実は「マンガの描き方本」を収集することをライフワークとし、現在、その数は200冊以上に及ぶという。
本連載は上野氏所有の貴重な資料本をベースに「マンガの描き方本」の変遷を俯瞰するシリーズである。マンガへの愛情たっぷりなチャチャと共に奥深いマンガの世界を味わいつくそう。
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連載 第三回
上野顕太郎の「マンガの描き方本」の歴史
◆「デジタル漫画の台頭」
私は昔ながらのやり方で漫画の作画作業を行っており、ほとんどの「漫画の描き方本」が紹介にページをさいている漫画を描くための道具、つけペンやペン軸を使用している。
しかし今や時代は猫も杓子もデジタル、デジタルで、この文章もパソコンで作成され、ネット上で公開されている。私が連載している『コミックビーム』(注1)の作家陣は、アナログ作成派とデジタル作成派が半々位の割合らしいし、他の雑誌を見ても、デジタル作画の漫画家は着実に増えているように感じる。
つまり、少なくとも昔の漫画の描き方本に載っているような漫画の道具やアナログな技術に関して言えば、そのノウハウを必要としないタイプの漫画家が増えているという事なのだ。
多くの作品で使われてきたベタフラ(図1)やカケアミ(図2)などという技も機械が取って代わり、過去の遺物になってしまうのだろうか?
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=709387
◆「トーン、夜明け前」
人類史上、初めて火を道具として使ったのはホモ・エレクトスと言われているが、漫画作画に初めてトーンを使った漫画家は永田竹丸(注2)と言われている。昭和40年代後半以降刊行の「漫画の描き方本」には、必ずと言って良いほど漫画の道具紹介の一角にトーンが存在していたが、職人的熟練を求められるような当時の漫画界において、当初はあまり肯定的に捉えられてはいなかった。一度に広い面積を埋める事が出来、時間の短縮になり、手間を省くという点から、使い方によっては手抜きと見られたり、画面が冷たくなる、と評されてしまう場合もあったようだ。
現在ではトーンでの表現も、重ね張り、削り等の技法を駆使し、ますます豊かになっているのはご承知の通りだが、初期の頃は、ただベタっと貼り付けるという単純な使い方に留まっていたのも、否定的な意見が多かった要因だと思う。
そんな訳で、昭和40年代後半のトーンを紹介している本には、トーンを使い過ぎたダメな例を挙げて、トーンの使い過ぎに注意を喚起するものが多い。今回はそんなダメなトーンの使い方をつらつらご紹介したいと思う。中には、「こんな無理矢理な使い方しないだろ!?」と突っ込みたくなるものもあるだろう、そんな時は遠慮なくパソコンやスマホやガラケーのモニターに向かって、突っ込むも良し、古井戸に向かって突っ込むも良いだろう。「王様の耳はロバの耳!」……と。
◆「“使い過ぎ注意”の例、色々」
まず最初にお目にかけるのは、御大、手塚治虫の『まんが専科』虫プロ刊(昭和44年)だ。確かにベタベタ貼ってあるが、まだ控えめなご様子(図3)。ついたてに貼ってあるバラ柄トーンは今や廃盤。確かに当時は子供心に野暮ったい印象があったが、今は果敢に使ってみたいトーンである。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=708813
手塚治虫はその後『マンガの描き方』光文社刊(昭和52年)(図4)でも貼りすぎているが、こちらの方がよりしつこくなっている。
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大御所を続けて紹介するが、石森章太郎『まんが研究会』小学館刊(余談ながらしょうがくかんかんってフレンチカンカンみたいですよね? 本当に余談だな!)(昭和54年)でもやはりバラ柄トーンを使用したしつこい処理を披露し、次の文言を呈している(図5)。
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無理して使う必要はないのである…!!
それにかわる技術で十分にカバーできる!
(中略)スクリーントーンの使用はもともと
いそがしいまんが家がその労をおしんで…
みたいなところがあるのだ…
勉強中からごまかしの術をおぼえてはいけません……!
続いての、赤塚不二夫監修『まんが入門』小学館刊(昭和46年)(図6)や、藤子不二雄監修『まんがのかき方全百科』小学館刊(昭和54年)(図7)、浅野プロ編『まんが教室』集英社刊(昭和46年)(図8)の作例は程よい(?)貼りすぎっぷり。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=709318
近年においても敢えて使い過ぎを注意する作例が次の二点。構成・飯塚裕之(注3)、作画・すもと亜夢(注4)他『めざせ!! まんがの星』小学館刊(平成12年)(図9)と、同じく飯塚裕之が構成を担当した車谷晴子(注5)著『0から始めるまんが教室』小学館刊(平成21年)(図10)。同じ貼りすぎの例なのだが、特に後者などは現代的な仕上がりになっているのがお分かりだろうか?
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=708824
さて、手抜きや画面が冷たくなる、などはまだソフトな物言いで、次の二点は痛烈だ。
寺田ヒロオ(注6)監修『漫画のかき方』朝日ソノラマ刊(昭和55年)(図11)と少年サンデー編集部編『新・めざせ!! まんが家』小学館刊(図12)(すごいな! しょうがくかんかん!! 一体、何冊位出版してるのだろうか!?)(昭和62年)。この2冊、作例は普通なのだが、前者には「トーンを使い過ぎると画面が死んでしまうよ」、後者には「スクリーントーンを貼りすぎると画面は完全に死ぬ。」というキャプションが付いている。ちなみに、人の顔に濃い目のトーンを貼り、死んだ事を表現するのは、さいとう・たかを、榎本俊二等である。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=708836
長々とご紹介させて頂きましたが、いよいよ皆様お待ちかねの栄えある、いや栄えない貼りすぎ大賞の発表です。そんな企画だったのか!
松下ちよし(注7)『絵でわかるまんがのかき方』梧桐書院刊(昭和58年)
良い作例もなんだか微妙だし、悪い方は、畳に貼ってある線のトーンがパースを無視する効果を発揮し、とても気持ちの悪い画面を作りあげている(図13)。お見事です。
真似しちゃいけません。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=708841
◆「まとめの二つ」
ドギツク使い過ぎを承知の表現をあえて作例に挙げている、藤子不二雄『まんが・入門編』若木書房(昭和51年)を紹介しよう(図14)。
(前略)こんな模様の洋服を着ている人は、かなりセンスのいいシャレ者ではないかネ。
こういう感じを出す時は、スクリーントーンの方がおもしろいモンネー。
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=708840
やられましたね。
最後に、使い過ぎの例ではないけれど、トーンに関する情報をお姉さんが教えてくれるので、みんなで聞こう。白石冬香(注8)『少女まんがかき方入門』学研(昭和55年)です(図15)。それでは今回はこの辺で失礼いたします!
⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=708842
※情報提供は、こちらに!⇒(https://nikkan-spa.jp/inquiry)
件名に「マンガの描き方本の歴史」と書いたうえで、お送りください。
(注1)コミックビーム:エンターブレイン刊行の一流月刊マンガ誌。上野顕太郎は『夜は千の眼を持つ』を連載中
(注2)永田竹丸:昭和9年生まれ。マンガ家。『ビックルくん』で第一回講談社児童まんが賞受賞。代表作に『おにいちゃん』がある
(注3)飯塚裕之:コミックの企画や構成、編集を手掛ける。『バカでも描けるマンガ教室―新條まゆの(裏)マンガ入門』の構成などを担当
(注4)すもと亜夢:マンガ家。主な作品に『こわしたいほど愛されたい』『私の…メガネ君』などがある
(注5)車谷晴子:マンガ家。小学館刊行の『少女コミック』でデビュー。現在、講談社刊行の月刊誌『ARIA』で『兄が妹で妹が兄で。』連載中
(注6)寺田ヒロオ:マンガ家。昭和6年-平成4年。手塚治虫や藤子不二夫が居住していたことで有名なトキワ荘のリーダー的存在。主な作品に『暗闇五段』などがある
(注7)松下ちよし:マンガ家。松下千代志とも。著作に、パズルを解きながら物語を読み進めるコミュニティー絵本『みけねこたんてい』シリーズなどがある
(注8)白石冬香:マンガ家。白泉社刊行の『花とゆめ』や学研刊行の『科学』など多岐にわたる媒体で作品を発表
文責/上野顕太郎
上野顕太郎/1963年、東京都出身。マンガ家。『月刊コミックビーム』にて『夜は千の眼を持つ』連載中。著書に『さよならもいわずに』『ギャグにもほどがある』(共にエンターブレイン)などがある。近年は『英国一家、日本を食べる』シリーズ(亜紀書房)の装画なども担当。「週刊アスキー」連載の煩悩ギャグ『いちマルはち』の単行本が10月末発売予定
※第三回は9月下旬に掲載の予定です。

(図1)ベタフラ:集中線の周りをベタでつぶした効果のこと。図は著者作の講談社刊行『ひまあり』1巻より。「この場合はベタフラにホワイトによる稲妻を加え、よりダイナミックに、というより大げさな表現にしています」(上野)
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