「生徒から先生への逆体罰」年間2000校以上で起きている
―[本当にいた[最凶教師]列伝]―
桜宮高校の体罰事件など、昨今、教師の行動が問題となっている。だが、そういったニュースを見て「ウチはもっと酷かった!」と思った人も多いのではなかろうか? もはや教育者とは思えぬトンデモ先生たちから受けた衝撃の体験談を集めてみた。
◆変な先生でいいじゃないか!! 教師の個性と犯罪は区別して考えてほしい
安倍総理は教育再生を公約に掲げ、橋下徹大阪市長も事あるごとに教育現場へ口を挟む。さらにマスコミは連日ダメ教師の記事を報じている。これらを見れば、どうやら教育の適正化は待ったなしのようだが、当の教師たちに危機感はあるのだろうか。鬼の教員・校長として数多くの非行少年たちに毅然として立ち向かい、定年退職後は、東京都町田市の教育アドバイザーとして後進教師たちの指導に尽力している山本修司氏に教師の本音を聞いた。
「猥褻や暴力など犯罪に当たるようなものは別として、今どきの感覚で言えばおかしな先生は昔からいました。授業をせずに歌で児童の心を掴もうとする先生や、面白い話を延々と続けて喜ばせる先生とか。私も若い頃に、放課後は職員室に一升瓶を持ち込んでみんなで飲んでいたこともあります。それが昔は『個性』として許容されていたんです」
ただ、昔は昔、今は今である。教員に対する世間の目が厳しくなったことを恨んでも仕方ない。
「いえ、私が主張したいのは、マスコミは面白おかしく、教員が起こした事件を次々に取り上げますが、そうした報道だけを見て『教師の質が低下傾向』と考えるのは間違いだということです。たとえ指導力不足の評価がつくような教員でも、研修センターでみっちり学習指導方法や生活指導方法を教わってから職場に戻る仕組みが、現在はできています。36年間教育に携わった経験から言えば、マスコミの論調とは逆に、教師の質は上がっていると思いますよ」
では、世間に渦巻く教育改革の掛け声は空騒ぎにすぎないのか。
「教育改革は必要ですが、その本来の論点が、ダメ教師や犯罪教師ばかりを追う報道によって見えにくくなっています。文科省の平成23年度統計によれば、全国の公立中学校9943校のうち、約2割の2012校で対教師暴力が起きています。教師がやられる以上、その前段階として生徒間の暴力やいじめ、器物損壊も起きていると容易に想像できます。教育現場が崩壊しているとするなら、真っ先にここを論じなければなりません」
体罰教師がクローズアップされる昨今だが、むしろ、深刻な問題と捉えるべきは、生徒による暴力のほうなのか。
「いわゆる少年犯罪の検挙件数は、私が中学生だった’64年と比べると最近は4分の1。若者を暴力犯罪へ突き動かすエネルギーは、総体的に見ても確実に減っています。にもかかわらず校内暴力がこんなにも横行しているのは、優しいだけの教師をよい先生と錯覚してもてはやし、校内規律を軽視する風潮に大きな問題があるんです」
これこそ教育改革の本丸と位置づけ、ここに切り込むべく山本氏は奮闘中だ。こうした情熱溢れるプロ教師の手足を縛ってしまう愚かさに社会はいつ気づくだろう。
【山本修司氏】
東京都公立中学校で指導主事、指導室長、校長を歴任し、荒れた学校を立て直した生徒指導のプロ。編著書『毅然とした指導』は、生徒指導に悩む教師たちのバイブル
取材・文/増山かおり 浦和ツナ子 高木瑞穂 田村竜馬 林バウツキ泰人 野中ツトム・中村未来(清談社) 長谷川大祐(本誌)
イラスト/石井匡人
― 本当にいた[最凶教師]列伝【12】 ―
『実践に基づく 毅然とした指導』 荒れた学校を再生するマニュアル |
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