カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第3講・インフレで得をしたのは誰か?」

紙幣のドレス

紙幣のドレス

 ハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。

国家は借金を踏み倒す


 歴史的に、国家は借金を踏み倒してきました。近代以前ならば、国王が一方的にデフォルト(破綻)を宣言し、近代以降ならば、金融政策により、インフレを引き起こし、借金を踏み倒します。国家はインフレにより、貨幣価値を毀損させて、実質的な債務負担を減らすことができます。歴史的に多くの国家がこの手法を悪用し、国民の富を収奪しました。

 一般的な概説書では、第1次世界大戦後、巨額の賠償金を抱えたドイツも極端インフレを誘導し、賠償金の実質負担を減らそうとしたと説明されますが、前回の解説のとおり、ドイツの賠償金は紙幣の支払いではなく、正貨つまり、金(ゴールド)での支払いを義務づけられていました。従って、賠償金に関し、当時のドイツ政府がインフレ誘導によって、享受できるメリットは何もありませんでした。

ライヒスバンクの紙幣増刷


 では、何のために、ドイツ政府や中央銀行のライヒスバンクは極端な紙幣増刷をおこなったのでしょうか。

当時、ライヒスバンクは手形発行、手形割引により、実質的に、資金の貸し付けをおこない、市中銀行と並び、融資を積極的に展開していました。図のように、インフレが激しく進行することを政府筋から掴んでいた一部の担保力のある借り手がライヒスバンクや市中銀行から、資金融資を受けます。

インフレ進行を利用した資産買い入れ その資金で、土地・設備などの資産を買い入れます。そして、一定の時期を過ぎれば、貸付金は激しいインフレの進行により、実質価値が下がります。インフレで通貨価値が下落すればする程、貸付返済は軽くなり、資産を安く買い入れることができます。

 極端なインフレが進む状況さえ続けば、購入した資産を担保に、さらに大きな融資を受け、それを資産買い入れに当てるという行動を際限なく繰り返し、保有資産を増大させることが可能です。

庶民の資産が大資本などに移動


 当時のドイツのハイパーインフレーションはこのようなオペレーションを取ることを前提にした人為的な誘導であったのではないかと考えられます。その結果、中産階級を中心とする現金資産保有者を干し上げて、担保力のある大資本、或いは政府関係筋が土地などの実物資産を所有し、囲い込んでいきます。

 最終的に、誰が、或いはどんな組織が得をしたのかを特定することは困難ですが、ハイパーインフレによって、社会資本の構成が大きく再編されたことは事実です。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。

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