カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第8講・ニューディール政策とは何だったのか? その①」
大統領経済諮問委員会
大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers, 略称CEA)はアメリカの経済政策を決定する上で、大きな影響力を持っています。この委員会の委員長に、スティーグリッツやイエレン、バーナンキなどが歴任しています。 2008年のリーマン・ショック直後、オバマ政権の当委員会は、委員長クリスティーナ・ローマーをはじめ、ニューディール政策の財政出動について、規模が不充分であり、経済回復に効果がなかったと批判しました。 委員会はその反省の上で、リーマン・ショック後の景気刺激策として、1兆8000億ドルもの財政出動政策をオバマ大統領に提言しました。しかし、この額については、さすがに聞き入れられず、オバマは8000億ドルの法案を議会に通過させました。恐慌への対応
ルーズヴェルト政権は1933年、世界恐慌に対応するため、ニューディール政策を打ち出します。ニューディール政策は財政出動を政策の柱として、以下のように、大きく6つの要素があります。 ●ニューディール政策の6つの要素 ①生産統制 農業調整法(AAA)、全国産業復興法(NIRA) ②金融緩和 金本位制停止による貨幣供給増大 ③財政出動 テネシー川流域開発公社(TVA) のダム建設 ④労働者保護 ワグナー法(労働組合法) ⑤高関税政策 ブロック政策(ドル・ブロック)による輸入遮断 ⑥銀行規制 グラス・スティーガル法(銀行の証券業務兼営禁止) 先ず、ニューディール政策は緊急のデフレ対策として、生産統制により、過剰供給に陥っていた生産量を減らし、品薄状態にして、モノの価格上昇を図ろうとしました。工業品の統制を全国産業復興法(NIRA)で、農産品の統制を農業調整法(AAA)で、それぞれ規定しました。生産休業者には、補助金が与えられました。 公共事業政策として、テネシー川流域開発公社(TVA)による大規模なダム建設を行い、多量の失業者に仕事を与え救済します。グラス・スティーガル法は銀行の投資業務を制限して、預金者の預金を株価暴落から守るための法律です。しかし、銀行は出資会社を設立し、それに株のトレーディングをさせて、規制から逃れたため、グラス・スティーガル法は事実上、ザル法になりました。 2008年のリーマン・ショック後も、ボルカー元FRB議長らを中心に、銀行の証券取り引きを禁止する法案(ボルカー・ルール)が出されましたが、業界の強い抵抗により、導入は見送られました。ニューディール政策は財政政策か金融政策か
そして、ニューディール政策の評価を巡り、今日でも議論が真っ二つに割れるのが、財政と金融の問題です。一般的に、ニューディール政策の骨子は豊富な財政出動で、公共事業を起こして、需要を喚起し、また、大胆な金融緩和で、資金を市場に供給し、景気を浮揚させること、とされます。 財政政策として、効果があったと評価する論者はケインズの弟子ピーター・テミンとエコノミストのリチャード・クー氏です。一方、大恐慌の原因を流動性の供給不足にあったとするマネタリストのミルトン・フリードマンは金融緩和の効果を認めています。FRB元議長のバーナンキも同じ見解です。 次回、これらの見解について、詳しく見ていきます。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。最新刊は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。
『世界史は99%、経済でつくられる』 歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。 |
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