治療法は患者が決める[楽しくなければ闘病じゃない:心臓バイパス手術を克服したテレビマンの回想記(第51話)]

高木

「東京慈恵会医科大学を創った高木兼寛学祖と建学理念」(学祖の郷里・宮崎県広報誌から)

糖尿病予備軍こそ要注意


「境さんの場合はコテコテの糖尿病ではなかったんです。ただ、典型的なメタボでしたね。糖尿病の入り口を出たり入ったりしていました。つまり糖尿病予備軍ですね。でもこういう人ほど心疾患に侵されやすいのです」。

 こう話してくれたのは田嶼尚子先生(糖尿病科・慈恵医大名誉教授)で、退院後10か月ほどしてお目にかかった時の話である。

 田嶼先生がボクの病歴をよくご存じなのは他でもない。平成10年3月、初診者として診てもらって以来、10年以上お世話になった。

 2か月ないしは3か月に一度、血液検査、尿検査を受けた。先生の勧めで前立腺ガンの検査をしてもらったこともある。幸いガンではなかったが、横綱級の肥大であるとの診断を受けた。

 糖尿病の精査のために経口ぶどう糖負荷検査というものも受けた。この検査は特に食後の高血糖を調べるのに有効だ。

 田嶼先生たちの研究で、食後の高血糖が糖尿病診断のカギになることもわかってきた。しかし、この検査でもボクは決定的な糖尿病患者ではなかった。

 結果的に76才で心臓のバイパス手術を受けることになったが、それまで健康を維持できたのは先生のおかげによるところが大きかった。

トータルケアの重要性


 ボクと慈恵医大病院との関係は生活習慣病対策でお世話になった田嶼先生に始まるのだから、心臓バイパス手術後の元気になった姿を見てもらいたくて、先生を訪ねた時の言葉が冒頭の言葉である。

 先生は大いに喜んでくれたが、入院中から気になっていた慈恵医大の建学理念「病気を診ずして病人を診よ」という言葉について、尋ねてみた。

「医者である以上、病気を診ないということはあり得ません。そのうえで、患者の立場で診療を施せということです」。患者の全人的状況、人生観、家族関係等へも配慮するということと受け取った。

 また「慈恵の医師は(自分の)家族に対してしないような治療はしません」とも言い、功名にかられて、新奇を追うことはせず、心身とものトータルケアを心がけているという。

 大病院になればなるほど、専門化が進み、縦割りになっていく。慈恵だってその例外ではない。分野別に療法を極めることは重要だが、一人の人間としての患者を全人的にみるトータルケアこそが大切だという。

 ドクターショッピングの落とし穴についても説明してくれた。ドクターショッピングというのはより良い治療を求めるつもりでいろいろな医療機関を渡り歩き、渡り歩く都度に主治医を変えることをいう。

 セカンドオピニオンは同一の主治医のもとでほかの医師の見解を求めるのが原則だが、ドクターショッピングでは主治医そのものが変わってしまう。

 医学界には「後医は名医」という言葉がある。前医より患者の疾病情報や治療歴情報が豊かにあるのだから適切な診断もできるので「名医」に見えやすいそうだ。

 しかし、それだけではトータルケアはできない。信頼できる医師に幅広く、長期間にわたって相談し、診てもらうしかない。

インフォームドチョイス


 そういうことを踏まえたうえで、田嶼先生は「これからはインフォームドチョイスの時代です」という。

 インフォームドコンセントは広く知られた概念だが、インフォームドチョイスの意味は「(医師から十分に情報提供を受けたうえで)治療法を決めるのは患者自身だ」ということである。

 なぜなら「人生を決めるのは患者自分自身だからだ」という。そのためにも全人的に診るトータルケアの医師が必要だという。

「病気を診ずして病人を診よ」とはトータルケアを指していることがよく分かった。

協力:東京慈恵会医科大学附属病院

【境政郎(さかい・まさお)】
1940年中国大連生まれ。1964年フジテレビジョン入社。1972~80年、商品レポーターとして番組出演。2001年常務取締役、05年エフシージー総合研究所社長、12年同会長、16年同相談役。著者に『テレビショッピング事始め』(扶桑社)、『水野成夫の時代 社会運動の闘士がフジサンケイグループを創るまで』(日本工業新聞社)、『「肥後もっこす」かく戦えり 電通創業者光永星郎と激動期の外相内田康哉の時代』(日本工業新聞社)。




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