高橋洋一氏は現代日本の救世主か⑤――ムラ社会の利益代弁者に気を付けよう
銀行ムラのエコノミストが金融緩和を否定する簡単な理由
金融緩和によって、日本経済は着実に回復軌道に乗りつつある。しかし、まだ、金融緩和の手綱は緩めてはならないというのが高橋洋一氏の立場である。 高橋氏は、次のように言う。 「(現在の経済指標を経済原理から見ると)金融緩和から引き締めへの転換期というところかもしれないが、筆者はまだだと思っている。なぜならば肝心のデフレから完全に脱却し切れていないからだ。 現在、一部の金融機関関係者からは、(金融緩和からの)出口戦略を急げという意見も出てきている。このまま超低金利が続くと、一部の地方金融機関等では経営上、困ったことが起きてくるからだ。(中略)今後を考えると、調達コストと経費率はもう下げられない限界に近づいている一方で、超低金利が継続し運用利回りが低下したら、金融機関の収益はより厳しくなってくる。 しかし、金融機関経営だけを考えて、超低金利政策を放棄するのは、デフレ脱却を遅らせてしまい本末転倒になる。(中略)ここは順番が非常に重要だ。超低金利政策を続け、デフレ脱却ということになって物価や賃金が上がり出し、その後に金利が上がり出すのだ。それなのに先に金利を上げたら、そもそも肝心のデフレ脱却を遠ざけてしまうだけなのだ」(『愛国のリアリズムが日本を救う』94~95ページ) その通りであると思う。そして、「ムラ」社会に所属し、ムラの掟に従属する人々を次のように批判する。 「このような出口戦略を叫ぶのは銀行業界から恩恵を受けている学者やマスコミである。(中略)結局は『どのムラに属しているのか』ということで、ムラから出てしまっては生活できないのだから掟を守ろうしているだけのことだ」 この指摘は重要だ。日本の学界や一部のマスコミ界は、ムラ長(おさ)を頂点にしたピラミッド構造にあり、ムラ社会の掟と徒弟制度のしがらみがある。これに反旗を翻(ひるがえ)すとなれば、村八分となり異端児扱いをされ、これまでの御身安泰の生活が逆風にさらされることになる。憲法学界というムラ社会に所属する憲法学者の哀れさ
話は少しずれるが、憲法学界というムラ社会に所属し、十年一日のごとく同じ講義ノートを使い学生に教えている憲法学者は、自分の頭で考え、発言することに不慣れになっているため、「集団的自衛権」に関して新しい知見を出すリスクを冒すよりも、恩師であった指導教官の旧来の教えをなぞっている方が気が楽なのである。 こうした日本の「知の怠惰な状況」に苛立ちを隠さずに、『「文系バカ」が、日本をダメにする――なれど”数学バカ”が国難を救うか 』(WAC)といったストレートな本を出版するあたりが、高橋洋一氏のユニークなところである。 本連載では、近刊の『愛国のリアリズムが日本を救う』の中の、経済政策に焦点をあて紹介したが、本書は連載4回目で全目次を掲載している通り、高橋氏の鋭い問題意識がちりばめられている。 今後、読者の反響を踏まえ、本書に記述されている岩盤規制に固執した文科省の前事務次官・前川喜平氏や、菅義偉官房長官に食い下がる東京新聞の女性記者の問題点なども本ニュースサイトで紹介して行きたいと思う。一度、地獄を見た安倍総理は「愛国のリアリスト」になった
さて、高橋氏は、本書で次のように記述する。 「これまで自民党政権化では『財政政策』に力点が置かれ、道路整備などのインフラ整備に予算を注ぎ込んできたが、安倍政権では本来左派政党がやるべきような『金融政策』によって民間の雇用促進を促す方を選択したのだ。このような政党のイデオロギーにとらわれずに、有効な政策を選び実行できる安倍首相は、第一次政権の苦難を踏まえ「愛国のリアリスト」となったと言えよう」(141ページ) また、「あとがき」でも次のように述べる。 「安倍総理は……内政で合格点、外交でも合格点。その背景には、第一次政権の苦難を踏まえた『愛国のリアリズム』がある。一度、安倍総理は地獄を見ている。筆者にも経験があるが、地獄を見るとその後の景色の見え方がまったく変わってくる。もともと安倍総理は、議論より実績や結果を優先するリアリストであったが、それが地獄を見て、さらに進化したようだ」(239ページ) 本連載の表題を【高橋洋一氏は現代日本の救世主か】としたが、「自分はキリストではない」と不機嫌になりそうなので、スーパー・ボランティアの尾畠春夫氏に倣い、「愛国のスーパー・エコノミスト」と称することにしよう。(了) 文責=育鵬社編集部M
『愛国のリアリズムが日本を救う』 愛国に右も左もない。あるのは、日本に対する責任感だ! 左派リベラルの観念論を論破し、国益と政策的合理性の追求を解き明かした渾身の書 |
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