世界文化遺産から読み解く世界史【第57回:宗教の発生――エルサレムの旧市街と城壁】
3つの宗教の聖都エルサレム
宗教の発生という問題にからんで、エルサレムのことを述べておきたいと思います。 エルサレムはすでに1981年にはエルサレムの旧市街と城壁が世界文化遺産に登録されています。エルサレムに私がなぜ注目するかというと、西洋の宗教の衝突を如実に表している場所だからです。宗教の衝突とは文明の衝突でもあるわけで、いまだに続く世界の紛争がここに集約されているのです。 私はここをイギリスの友人の案内で見に行ったことがあります。その際にテルアビブ大学やエルサレム大学に訪問したついででしたが、エルサレムという場所はユダヤ教とキリスト教とイスラム教という三つの宗教の聖都になっています。宗教が入り交じっている場所ならば他にも例がありますが、それぞれの宗教の中心都市になっているところにこの町の重要な意味があり、また悲劇があるのです。 たった1キロメートル四方の旧市街を散歩すればわかりますが、いまもキリスト教徒の地区があり、イスラム教徒の地区があり、アルメニア人の地区があります。もちろんユダヤ教徒の地区があります。 その歴史に簡単に触れますと、紀元前1000年頃、古代イスラエル王国の第2代王であるダビデがエルサレムを首都としました。その息子であるソロモン王がここに壮麗な宮殿や神殿をつくりました。この頃、エルサレムは栄華を極めたといわれます。しかし、ソロモン王の死後、王国はしだいに弱体化し、以後この地にはさまざまな勢力が入り込んで闘争を繰り返してきました。 そして、第二次大戦後の1948年、国際社会の承認を得ることなくイスラエル人がこの地にイスラエル国を建国し、ユダヤの新しい国として独立を宣言しました。ダビデ、ソロモンの時代にまでさかのぼれば先祖の土地に帰ったともいえますが、いまそこに暮らすユダヤ人たちは1948年以降にやってきた移民です。これはアラブ人からすれば、アラブ人の土地を奪って植民地化したといってもいいわけです。この矛盾がいまのイスラエル問題につながり、何度も中東戦争を引き起こしているのです。 (出典=田中英道・著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 田中英道(たなか・ひでみち) 昭和17(1942)年東京生まれ。東京大学文学部仏文科、美術史学科卒。ストラスブール大学に留学しドクトラ(博士号)取得。文学博士。東北大学名誉教授。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める。著書に『日本美術全史』(講談社)、『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『日本の文化 本当は何がすごいのか』『世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『世界文化遺産から読み解く世界史』『日本の宗教 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史――世界最古の国の新しい物語』『日本が世界で輝く時代』(いずれも育鵬社)などがある。ハッシュタグ
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