世界文化遺産から読み解く世界史【第68回:チベットの自然条件と仏教】

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日本の山とチベットの山

 ここでもう少しチベットの自然条件と仏教について、考えてみたいと思います。  チベットはヒマラヤという山の中にあるということについてです。これまでにも、世界各地のさまざまな宗教的建築物や構築物の創造の源泉に、「山をつくりたい」という人間の精神的な志向があるということを述べてきました。  チベットは、まさに山の中にある仏教で、山岳宗教と仏教が重なり合っている例となるのです。つまり、こうした土地で仏教を布教するということは、結局、山岳宗教を取り入れることになります。  それは日本でも同様のことが行われるわけですが、日本の場合はヒマラヤのように高い山ではありませんから、自然と親しむ、自然と和していくような山岳宗教になります。これがヒマラヤの場合、非常に高い山です。過酷な山といってもよく、日本の山のような近づきやすさがありません。ですから、その宗教は、自然とある意味で対立するものになっていきます。そのために、ダライ・ラマという存在に寄り添う共同宗教の色合いの強い仏教となっていくのです。    日本における個人宗教的な仏教の要素は少ないのです。ですから、その文化は大きな寺院などの建物はつくるけれども、文学や芸術は生み出されないのです。ですからチベットに行ってみても、芸術に出合うという感じはしないのです。  同じ仏教文化といっても、チベットと日本はその自然環境の違いなどによって、かなり性格の異なる文化になっているということを知っておかねばなりません。仏教の世界文化遺産をめぐってみると、そうした違いを感じることが多いでしょう。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史』『日本が世界で輝く時代』(いずれも育鵬社)ほか多数。
日本が世界で輝く時代

世界各国が混迷を深める中、今キラリと輝いているのは、日本の長い歴史と文化である。“いぶし銀"のような実力と価値。新時代のグローバル・スタンダードとしての日本的価値を縦横に論じる。

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