世界文化遺産から読み解く世界史【第69回:もとはキリスト教の聖堂だった最古のモスク――ダマスクスのウマイヤド・モスク】

ウマイヤドモスク(縮小)

イスラム最古のモスク、ウマイヤド・モスク

教会の聖堂がモスクに

 アラビア半島のメッカに生まれた商人ムハンマドが、アッラーの啓示を受けて誕生したのがイスラム教です。それは610年のことだといわれています。その啓示の内容が聖典コーランです。  661年、シリア総督ムアーウィアによってイスラム初の王朝であるウマイヤ朝が建てられ、その首都が置かれたのがダマスカスでした。ダマスカスは、メソポタミアと地中海、アラビア半島を結ぶ交通の要衝として、古くから開かれた町でした。  ダマスカスにはその歴史の中で、さまざまな宗教が入ってきました。ローマ時代にはジュピター神殿が建てられました。ビザンチン時代には聖ヨハネ聖堂がつくられました。時代によってさまざまな宮殿が建てられました。ここをイスラム教が根拠地の一つにしたのも、聖地としてふさわしい歴史と、交通の要衝としての重要性を兼ね備えた町だったからなのです。  現在、ダマスカスはシリアの首都となっていますが、内戦が行われて大変な状況です。世界遺産となっているダマスカスの旧市街は、そのイスラム教地区に、城壁で囲まれて残されています。  この旧市街を東西に貫く道があります。新約聖書に「真っ直ぐな道」と記された道ですが、この旧市街が後に、イスラム教の中心地となったのです。そこには、ウマイヤ王朝のアリ・ワリード1世によって建てられたイスラム最古のモスクであるウマイヤド・モスクが建っています。  ウマイヤド・モスクは、もともとはキリスト教の聖堂で、そこには聖ヨハネが祭られていました。それが改造されて、イスラム教のモスクになりました。  ウマイヤ朝はシルク・ロードによって、イスラム教を中央アジアに広げていきました。 例えば、サマルカンドという町があります。ここはシルク・ロードのオアシス都市ですが、ユーラシア大陸のど真ん中に位置し、まさに文化交差路ともよぶべき町です。ここが、1220年にチンギス・ハーンのモンゴルに襲われるのですが、それ以前から、イスラム教は伝わっていて、イスラム文化がつくり出されていました。  ウズベキスタンには、ブハラという町があります。ここもサマルカンドと同じようにシルク・ロードのオアシス都市ですが、9世紀から10世紀のサマニ王朝時代に、イスラム文化の中心地として栄華を誇ったといわれています。ここには、カリヤン・ミナレットという416メートルもある大きな尖塔がつくられ、今日に残されています。  このブハラも、サマルカンドと同じように、チンギス・ハーンに襲撃されて、一度は壊滅してしまったのですが、どちらも復活して、サマルカンドはティムール王国の首都として再生しました。  サマルカンドは、ティムールが世界各地から学者や芸術家を集めて、モスクや神学校(メドレセ)を建てたといわれます。14世紀、15世紀の中央アジアのイスラム文化の粋が、この地に結実したのです。 (出典/田中英道著『世界文化遺産から読み解く世界史』育鵬社) 【田中英道(たなか・ひでみち)】 東北大学名誉教授。日本国史学会代表。 著書に『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『[増補]日本の文化 本当は何がすごいのか』『[増補]世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本文化のすごさがわかる日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史』『日本が世界で輝く時代』(いずれも育鵬社)ほか多数。
日本が世界で輝く時代

世界各国が混迷を深める中、今キラリと輝いているのは、日本の長い歴史と文化である。“いぶし銀"のような実力と価値。新時代のグローバル・スタンダードとしての日本的価値を縦横に論じる。

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