「お客様は神様です」は店側が接客の心構えで言う言葉であって、客側が横柄な態度の言い訳に使う言葉ではない……、と思う
飲食店といえば、ことさら労働環境のブラックさが取り上げられる昨今。
むろん、安い賃金で過剰な労働を強いられることがその主因なのだが、中には結構なトンデモ客も少なくない。
特に、深夜営業の居酒屋などでは、明け方の時間帯は”ユニークな”客の宝庫だという。唐突にダンスを踊り出す客に、「俺はガンダム!」と意気揚々と店に入ってくる客、個性豊かな彼らのパフォーマンス(?)をとくとご覧あれ。
◆音読男
増田果歩さん(仮名)が働く某ファミレスの明け方に現れる常連客のこと。
「決まって5時くらいにお店に来て、席に大量の英語の本を積み上げます。パリッとしたスーツに、清潔感のあるジェントルマンといった出で立ちで、身なりは一見まともですが、演劇でもやっているのかと思うくらいの大声で、
英語の小説らしきものを音読します。声を落としていただけますでしょうかとお願いすると『俺を注意するならあっちで会話してるやつらにも注意するのが筋だろ。
日本人は俺にコンプレックスもってるんだよ。出る杭は打たれるの。なんで下等なやつらの言う事聞かなきゃいけないの?』と、意味不明の逆ギレをされました。“英語の本を読み上げられる俺”にエリート意識を持っているようで……。そろそろ出禁宣告をする話も出ています」
◆夢遊病ダンサー
こちらはコーヒーチェーン店での話。店員の水野元樹さん(仮名)は、唐突にブレイクダンスを始めるお客さんを目撃した。
「30代前半の男性が入店してきて、普通に喫煙席に座りました。しばらくすると、客席が騒然としていたので見に行くと、客席の床で
ブレイクダンスのように背中をスリスリ床にこすりつけてのたうちまわっていました。よく見ると、寝ている様子。いくら起こしても起きないので、他の男性店員と一緒に抱き上げて椅子に座らせ警察に通報。この地域での常習犯らしく、『奥さんも子供もいるんだからしっかりしなきゃダメだよ!』と警官に怒られていました。病気なら、『しっかりしなきゃ』と怒られてもどうしようもないので、少しかわいそうでしたが」
◆私待つわ、いつまでも待つわ
お客さんに偉く気に入られてしまったバー店員の宮田瞳さん(仮名)。
「お店を上がったあと、明らかに尾行してきてたくせに、あとから偶然を装って『あ!』と声かけてきたり、駅で待ってて『あれ? 瞳ちゃんも今帰りだったんだ?』と話しかけてきたり」
それくらいならばまだいいが、おかしなプレゼントまでされるという。
「私についての思いをしたためた
自作の絵本とかを作ってくるんですよ。絵と一緒に、変なポエムみたいなのも添えて。『
チューリップのような瞳ちゃん。蜂の僕は、瞳ちゃんというチューリップの蜜を吸いにいくよ』とか書かれていました。その創作欲求、別のところで活かしてほしいですよね……。さらに、最近では、『奥さんと離婚するから!
瞳ちゃんが振り向いてくれるまで待ってる!』とまで言い出すように。常連客にはっきり断るのはお店の打撃でもあるので言いづらいのですが、いい加減にしてほしいです」
◆海賊客におれはなる!
個人経営の居酒屋でバイトする細田美也子さん(仮名)は、毎日のようにお客さんの“ごっこ遊び”に付き合っている。
「ほぼ毎日来るおじさんは、なぜかいつも何らかのキャラ設定があるんですよ。あるときは『
俺は海賊王!』、またあるときは『
俺はシャア』とか。周囲に明らかな迷惑行為をしてくるわけでもなく、店員に向かって、自分のキャラ設定で話しかけてくるだけだから、注意するわけにもいかず、仕方なく相手をしています。老人介護とでも思ってやっていますね。そのキャラ設定にそぐわないセリフをこちらが言うと『違う! そのキャラはこういうセリフを言うの!』と指導が入るので、マンガのキャラにムダに詳しくなりました」
これらの客のほとんどに共通しているのは、常連客という点。彼らの“パフォーマンス”を広い懐で受け入れてくれる居場所はなかなか見つからないものなのかもしれない。とすると、労働環境にも負けず、リアクションに困る接客も忍耐強く続ける飲食店従業員のタフネスぶりには畏敬の念を表せざるを得ない……。 <取材・文/日刊SPA!編集部>