欧州財閥の御曹司がヘイトスピーチを痛烈批判【後編】

 東京のコリアタウン・新大久保で毎週のように行われるヘイトスピーチデモと、「レイシストしばき隊」の衝突劇。  渦中にいる在日外国人は、この光景をどう見ているのか。  編集部は、ある在日ヨーロッパ人のグレンさん(仮名・32歳)に話を聞いた。  日本在住5年のグレンさんは、実は欧州では誰もが知る某グループ企業の御曹司で、いわゆる遊学のために来日。跡を継ぐのか?という質問に対しては、「親がやっている仕事なので」と言葉を濁す。去る4月で日本での学びと仕事を終え、次なるアジアの地へ旅立っていくという。彼は慣れ親しんだ日本との別れを惜しみつつ、今繰り広げられている状況について語った。 (※文は個人の主張であり、編集部の見解とは関係ありません) ⇒【中編】はこちら https://nikkan-spa.jp/434385 ――去年中国では反日デモどころか、暴動が起きた。それはどう思うのか。  バカバカしいが、ある程度理解する必要はある。まだ戦後70年しかたっていない。日中韓の数千年の付き合いを考えれば一瞬のようなものだ。その傷を今、治そうとしているのに、ヘイトスピーチ団体がそれを再び広げている ――しかし、日本は中国・韓国にこれまで何度も謝罪しましたが、受け入れられていません。  一体、何の文句を言っているんだ。文句を言うなら自分たちに対して言うべきだ。中国・韓国は日本を侵略していないのに、日本人が何故そこで怒るんだ。受け入れられていないならその謝罪が嘘だからで、謝罪してからもずっと文句を言っているからだろ。世界が見てるから、体面上仕方なく謝罪してみただけだ。  ドイツはユダヤ人の収容所をオープンにして、誰もが見れるようにしたんだ。日本人は中国人、韓国人ともうまくいっていない。歴史の授業で何も教えてないからだ ――日韓間の歴史問題は、日韓国交正常化の際すべて解決したというのが日本の立場です。  それは民主的な政府同士で結んだ条約ではない。まだ韓国人が怒っているのなら、理由があるはずだ。日本は世界が見ている分、もっと男らしくしなければならない ――ヨーロッパのレイシストたちはどのような主張をするのでしょうか?  たとえばイスラム系の政治団体が、ヨーロッパ系の人間を虐めるべきだとか、女性はヒジャブを被らないとダメだとか。表現の自由は保証されているから言いたいことは何でもいっていい。  だが、あのヘイトスピーチ団体は注目されすぎている。例えば、イスラム原理主義者が『ゲイが嫌いだ』となら別にいい。そんなことは知り尽くしているし、誰も興味を持たない。だけど駅前で『ゲイを殺せ』と言ったり、ミニスカートを履いた女性に向かって『娼婦だ』というのは表現の自由ではなく、ハラスメントだ。  ヨーロッパでイスラム原理主義者たちは『女は車を運転してはいけない』というが、そうした女性蔑視はヨーロッパの価値観ではない。だから人に命令したり、そうするよう呼び掛けることは許されない。ヘイトスピーチ団体も同じように、表現の自由はあれど公共の場で特定の人間や外国人を攻撃しようと呼びかけるのは許されない。部屋にこもって、同じ部類の人間同士でやってればいい。雑誌を作ってもいいし、インターネットでコミュニティを作ってもいい。ただし公共の場で騒いでいるのは規制する必要があると思う ――ヘイトスピーチをする団体か、もしくは彼らを支持する日本人に会ったことはありますか?  ない。団体では威勢が良いが、個人では僕の前で何も言えないからだろう。ヨーロッパで問題を起こしているイスラム原理主義者とそっくりだ。奴らも一人ではなく、常に5人以上で行動している ――レイシズムやヘイトスピーチは規制すべきだと思いますか?  すべきではないし、言いたいことをいえばいいと思う。ヘイトスピーチ団体が掲げている問題は単に自らの欲求不満で、他人がさせたものではない。イスラム系だって皆が原理主義者ではない。僕がイスラム原理主義者を批判しているのは、日本のヘイトスピーチ団体のように『外国人は出て行け』という理由ではない ――万が一、法律でヘイトスピーチを規制すれば誰がレイシストなのか分からなくなるのではないでしょうか? ヨーロッパでは政治家がふとそうした発言をして辞職に追い込まれることもあると聞いています。ヨーロッパではレイシストかどうかを区別できる基準はありますか?  それは分からない。髪を剃ってそういう格好をしているならわかりやすいけど  最後に、グレンさんはこのように話した。 「この話を読んで気分を悪くした日本人も多いだろう。それは俺が真実を言っているからだ。日本人はレストランの味が悪くても正直に言わないが、ヨーロッパ人は『こういうところが足りない』とはっきりいう。真実を言われる時は痛いが、本当に相手のためになるなら必要なものだ。人間は誰でもミスはするし、それを認めながら成長していくものだ。日本人も同じだ」  ツッコミどころもないわけではないし、歯に衣着せぬ発言ではあるが、新大久保デモの様子に対する感想を素直に語ってくれたグレンさん。デモに限らず、自国やインターネット上にこもっているだけでは気付かない視点は多いだろう。  日本の国際化促進には、まだまだたくさんの課題がありそうだ。 <取材・文/日刊SPA!取材班> ※新大久保・ヘイトスピーチデモの詳細はこちら参照
https://nikkan-spa.jp/414354
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