クリエイティブな仕事は人工知能に奪われる!? 2045年問題の行方
人工知能研究に、新たにディープラーニングというアイデアが出現。『ターミネーター』や『攻殻機動隊』など、空想の世界が現実味を帯びてきた。人工知能の進化で人類の未来は!? 電気通信大学・大学院情報システム学研究科教授・栗原聡氏とユビキタスエンターテインメント代表取締役社長・清水亮氏に徹底討論してもらった
【栗原聡氏】
NTT基礎研究所やNTT未来ねっと研究所、慶應義塾大学、大阪大学などを経て現職。複雑ネットワークや脳型人工知能研究を進めつつ、農業などの第一次産業に導入する研究も行っている
【清水亮氏】
ユドワンゴの立ち上げに参画。DWANGO North America社設立時には副社長に就任。その後、独立。情報処理推進機構より天才プログラマーの称号を授与。近著に『プログラミングバカ一代 就職しないで生きるには21』『最速の仕事術はプログラマーが知っている』
◆ディープラーニングによって人工知能がめざましく進化
――GoogleやFacebookが人工知能関連企業を相次いで買収するなど、人工知能が脚光を集めています。昨今の研究で何が起こっているんでしょうか?
栗原:人間が「人のような知能を持つ機械を作りたい」という願望が人工知能研究の根底にあります。主役は、膨大な神経細胞(ニューロン)の塊である脳。そして、さまざまな人工知能技術のひとつに、この神経細胞の仕組みを真似たニューラルネットワークの研究があり、長く続けられています。そこに最近、ディープラーニングというアイデアが出てきました。これを突破口として、本当に人の脳を凌駕する人工知能が実現するんじゃないかと。
清水:’12年に人工知能の大会で、いきなりディープラーニングを活用したコンピュータが、他を圧倒して優勝したんです。
――人工知能が人間の能力を超える(シンギュラリティ)は、2045年とも言われています。どう考えますか?
栗原:今でも用途を限定すれば、人工知能は人の能力を超えています。例えばスマホでの音声対話や検索、ニュースアプリや乗り換え案内など、我々の日常生活のさまざまな場面で、すでに人工知能は利用され始めています。ただし、さらに汎用性を高め、身体性を持ったターミネーターやチャッピーのような人工知能については、いつになるかわかりません。
清水:2045年って超未来の話。そんな未来は誰にも分からないし、わかったら天才を超えた神だよ。だけどいつかはシンギュラリティは起こると思う。それは今年の年末かもしれないし、50年以上先かもしれない。
◆クリエイティブな仕事が人工知能に奪われる!?
――人工知能には、期待と脅威という相反する感情が高まっています。ターミネーターのような人工知能搭載ロボットと人類が対峙することはありえるのでしょうか?
栗原:今の人工知能には自我がありません。「生きたい」とか「種を残したい」という生物の根源的な目的ですね。もし人の脳全体の仕組みが解明されれば、人工知能にもそうした自我を持たせられるのかも。そうなると、ターミネーターやチャッピーのような話が現実味を帯びてくる。
清水:確かにホーキング博士やビル・ゲイツが危惧するのもわからなくはない。でも、自我が搭載されないなら、いくら人工知能が進化しても、人が負けるわけがない。
栗原:あと忘れてはいけないのが、数十年かけて進化するのは人工知能だけじゃなく、人も同じ。人工知能が進化したとしても、きっと上手に適応できるはずです。
――ではシンギュラリティは、人類にとって脅威ではない?
清水:影響があるといっても、これまでの技術進化がもたらしたものと一緒。貧富の差が広がって、モテる奴はよりモテるし……。身近な脅威といえば、本や雑誌を書いたり作ったり、僕らのように“芸”を生業にしているような職業が減っていくってことかな。
栗原:クリエイティブな仕事からなくなっていくってことですか?
清水:そうだと思います。人工知能は“ツボ”を押さえて最適化するのに適している。
栗原:面白い考えですね。一般的には、定型的な仕事をしている人は駆逐されて、クリエイティブな仕事をしている人は残ると言われていますが、逆なんですね。
清水:真逆だと思います。ディープラーニングによって人工知能が学習しやすいのは、本質ではなくて“ツボ”なんです。例えば女の口説き方とか映画での感動のさせ方とか、ブログでのアフィリエイトのクリックのさせ方とか。“ツボ”を恐ろしいほどの勢いで最適化できるようになるんですよ。だから中途半端なクリエイターっていうのは、秒速でいなくなる。
栗原:ある程度、抽象度が高いところでの判断には適しているっていう考えですね。
清水:そう思います。だから具体的な文章を書かせるのはまだ難しいけど、映像とか漫画なら、早い段階で人工知能が活躍する可能性が高い。だから、そうなる前に人工知能を使いこなせる側に回れ、ということです。
<取材・文/河原塚英信 撮影/下城英悟 写真/アフロ>
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