更新日:2016年06月11日 07:28
スポーツ

テロを乗り越えて開幕。EUROとフランス、影と光

議論の対象となっている出入り自由な場所“ファンゾーン”

 むしろ不安視されているのは、いわゆる「ファンゾーンで」ある。全国10のスタジアムには通算250万人の観客が訪れるが、開催都市に設けられるこのパブリックビューイング会場には、会期中に通算700万人が集うだろうと予想される。問題はこのファンゾーンが、屋外の、たいていは公共の広場に設けられること。周囲を囲む常設のフェンスや壁など存在せず、つまりスタジアムとは違って、「開放された」空間であること。しかも6月10日から7月10日まで毎日、朝から晩まで、無料で、あらゆる人間のために開かれている。 「テロリストたちに絶好の機会を与えるだけ。ファンゾーン設置は中止すべきだ」とフランス国家警察の上級警視正であり、内務省官僚であり、共和党員でもあるフレデリック・ペシュナールは声を大にして訴えた。パリ市でのファンゾーン設置を決める最終投票には、共和党はこぞって反対票を投じた。  それでも当初の予定通り、ファンゾーンは、フランス全土に10カ所設置される。パリではエッフェル塔の下に広がるシャン・ド・マルス公園が、欧州最大420平方メートルの巨大スクリーンと共に、最大9万人のファンを受け入れる。マルセイユでは地中海岸のプラド・ビーチが、サッカー観戦場に姿を変える。日中は現地でビーチサッカーを楽しむこともできる。  もちろん、ファンゾーンをできる限り「閉鎖された、安全な空間」にするために、フランス政府も開催自治体も入念な準備を続けている。ゾーン周囲にフェンスを設置し、出入口を数カ所に限定し、入場には金属探知とボディチェックを行うことが義務付けられた。かばん類の持ち込みも禁止された。  トゥールーズはファンゾーンに新たに10台の監視カメラを設置し、ゾーン周辺から駅までの道のりにもカメラを特別に追加した。ニースは顔認識システム付きのカメラ設置許可さえ国に申し出ている。監視カメラ設置にかかる経費の80%は政府が負担するが、たとえばボルドー市はテロ前に予定していた2倍の安全対策費(100万ユーロ)を捻出する必要があるという。この安全対策費はパリだけで700万ユーロ、国家全体で2200万ユーロと見積もられている。  またフランス雇用局は3500人の臨時募集をかけ、ファンゾーン専門警備スタッフとしての特別教育を施した。こうしてパリのファンゾーンには常時350人、試合時には400~450人の警備スタッフが配置されることになった。警備に関しては、“これで十分”と言えるものではない。それでもフランスは、市民たちは、来たるUEFA EURO 2016に向けて、前を見て歩みを進めている。

仏・監督デシャン「誰一人、忘れることなど出来ない。でも不安や恐れを抱き続けるべきではない。」

 その気持ちは、フランス代表監督ディディエ・デシャン監督も同じだ。 「あの日起こったことを、誰一人、忘れることなど出来ない。でも不安や恐れを抱き続けるべきではない。スタッド・ド・フランスは我らのスタジアムだ。だから我々はサッカーをプレーするためにそこに行く。できる限り楽しいお祭りにするために、乗り込むんだ」  お祭りまであと少し、暗い影を背負ったフランスにユーロという光は何をもたらすのか。その瞬間は間もなくやってくる。
UEFA EURO 2016 UEFA

「UEFA EURO 2016」UEFA.comより

■UEFA EURO 2016 サッカー欧州選手権 2016年6月10日開幕!WOWOW http://www.wowow.co.jp/sports/euro/index.html 文/ナノ・アソシエーション
1
2
おすすめ記事