ドキュメンタリーの鬼才・原一男が今、水俣病を撮る理由「ジレンマを10年間抱えながらカメラを回した」
――平成はどんな時代だと思いますか?
私たち「疾走プロダクション」が作ってきた昭和のドキュメンタリーは、「スーパーヒーローシリーズ」と名付けているんですね。強烈な個性を持った、私にとって”スーパーヒーロー”と言える人たちを主人公にしてきた。でも今は昭和のように強烈な生き方をしているヒーローが全然いないんですよ。強烈な生き方というものを時代は求めてないし、受け入れなくなっちゃったんですね。
水俣もアスベストも、普通の生活者を撮ってるわけです。「そういう人を主人公にした作品なんか絶対撮らないと決めてやってきたのに、なんでこの俺が今、普通の生活者を撮ってるんだろう」というジレンマを、この10年間抱えながらカメラを回してきました。
――水俣に関する作品は過去にいくつも他の監督の手によって作られていると思いますが。
水俣に関する運動は’70年代頃にピークを迎えたんですね。その頃を記録した映画は必然的に傑作と言われるものになってくる。だけど私が撮っている現在は、運動の勢いがかなり弱まっている時期ですからね。そんな中で「一体何を撮りゃいいんだよ!?」という難題を私は10年以上も背負ってるわけですね(笑)。
――水俣ではダイビングのライセンスを監督自ら取得して海中撮影にも挑んだとのことですが。
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水俣湾っていうのはとても小さいエリアなんですよ。そこにチッソが流した水銀が堆積していったわけでしょ。水俣湾、不知火海全域の魚たちはどんどん水銀に汚染されていって、それを人間が食べることで水俣病が発生したんですね。
そして、その汚染された魚たちを捕獲してドラム缶へ詰めて、水俣湾のすぐそばに埋めたんです。今、その埋立地は小綺麗な公園になっていて、毎年、そこで水俣病の慰霊祭をやっているんですよね。人々が犠牲者を弔っているその足元には、水銀を取り込んだ魚の死骸が埋まってるわけ。考えてみれば、非常におぞましい世界ですよね。
鉄製のドラム缶は腐食していくので、少しずつ中の水銀が流れ出る可能性があります。そのドラム缶と海水の間に鉄板を埋め込んでいるんですが、その鉄板の寿命が50年だって言われていて、もう30年経ってるんです。だから、心ある人たちは不安に思ってるわけですね。その不安を映像として描くには「直接水中に潜って鉄板の様子を撮影してみるしかないやないか」と。
――運動のピークをとうに過ぎている現在の水俣の住人を撮影して感じたことは?
いろいろな問題がありました。’70年代に胎児性水俣病として認められた子供たちが今、高齢者になっていて、その人たちの面倒はいったい誰が見るのか? ということ。もう1つは、水俣病の患者は現在にかけて実は増加しているということです。
かつては短期間に大量の水銀を体内に取り込んでしまったことによる劇症型の患者さんが数多くいたんですが、今はそのほとんどが亡くなってしまっている。ところが新たに、少量の水銀を長期間取り込んだために起こる症状を持つ患者さんが増えているんです。
ただ、これは水銀だけではなく、地球上にあるさまざまな化学物質によって起こる“複合汚染”だという捉え方を私はしています。これは他の地域でも起こりうるものなんですが、特にこの水俣では複合汚染によって水俣病の初期のような症状を持つ人が飛躍的に増えているのが現状です。
――水俣の人々は、問題になった後も水俣湾・不知火海の魚を食べ続けていたということですか?
そうなんです。水俣湾の魚はすごく美味しいんですよね。これは福島の放射能の問題と同じですけどね。まず国が定めた基準値というものがあって。そこを超えていなければ大丈夫だと政府は言うんですね。これはイカサマですよね。放射能も水銀もゼロではないんだから。でも、人間って都合の良いことは信じたくなるものなんですよ。政府が「大丈夫だ」って言ってんだから大丈夫やろって、今も魚を食べ続け、体内に微量の水銀を蓄積し続けているのが現状です。
――放射能の問題とも繋がってくるんですね。
福島の問題と同じだという見方がありますけど、本当にその通りですよ。水俣の問題が、福島の問題を先行していると考えられますよね。実際に福島と水俣の人たちは少しずつですが互いに交流する場を持ち始めているようです。
――28日に上映される『MINAMATA NOW!』の見どころを教えてください。
関西訴訟最高裁で水俣の人たちが勝訴したあと、原告団が行政の方に交渉の場というものを求めるんですよ。行政側も、裁判が終わったから仕方ないかというかたちで応じるわけです。そこで、原告団と行政の代表者が睨み合うシチュエーションが必ずあるんですね。で、そのとき環境大臣だったのが今話題の小池百合子さんだったんです。水俣の人たちが小池百合子さんを取り囲んで「お前、謝れ!」ってやるんですよね。一応、水俣の人たちに対して謝罪をするわけですが、そのときの彼女の表情には注目です。
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