更新日:2022年08月25日 09:04
スポーツ

プロレス入門書としての『1984年のUWF』――柳澤健×樋口毅宏

外側からしか書けない「正史」

樋口:間違いなくこれは力道山から続く日本のプロレスの正史です。新説があるわけではないし、内容も概ね同意。だから「目新しさがない」と言ったんです。 柳澤:普通に書いてるだけなんですけどね(笑)。 樋口:僕はオンタイムの時代に生きていた人間ですけど、次の世代、今の若い人には「これで正しい歴史を学べますよ」と、自信をもって勧めることができます。 柳澤:ありがとうございます。『1976年のアントニオ猪木』を書いた時に、ミスター高橋さんから「新日本プロレスの最も正確な歴史書」と言われて嬉しかったんです。 樋口:ミスター高橋といえば、かつて新日本プロレスのメインレフェリーとして、著書(『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである』)の中で、プロレスの裏を赤裸々に書きましたが。 柳澤:むちゃくちゃ嬉しかったんですよね。要するに結局プロレスって、レスラーとフロントとプロレスメディア、あとファンが一体となって作り出す共同体みたいなものだから、その幻想を守ろうとする共同体というのがある。全体像はその外側に出ないと見えないし書けない。中にいたら絶対に書けません。 樋口:ディズニーランドの中にいたままでディズニーランドの全貌を見ることは無理ですから。 柳澤:そうなんです。みんなで幻想を作り出そうとするプロレス共同体の外側に僕がいることが気に入らない人たちがいる。「どうして俺たちと同じ熱い思いでプロレスを見てくれないんだ」と不満なんです。そういう人たちが「冷たい」とか「愛がない」と言うんじゃないかなあ。 樋口:こういってはなんですけど、柳澤さんは外から見ていると言いつつも、この温かみはファンでないと書けないです。 柳澤:ありがとう! そんなこと誰も言ってくれない(笑)。 樋口:しかし、なんで「冷たい」なんだろう。僕はその人たちと話が合わないだろうな。 柳澤:よかったー。ありがとう。まぁ樋口さん書く人だからね。なんだろうね、前田日明のこういうとこは好きだけど、嫌だなというところは見ないで擁護するみたいな風潮がありますよね。 樋口:あぁ。だから僕はプロレスだけではないんですけど、偶像崇拝はないんですよ。こういうとこが好き、こういうとこは嫌い、なんですよね。 柳澤:でも全体的に言えばいいじゃん、みたいな感じ。 樋口:ねえ。 柳澤:やっぱりね。猪木さんだってこういうところは素晴らしくて本当にすごいと思うけど、これよくないよねっていうようなことを書くと、猪木信者に怒られるっていうところがありますよね。 樋口:だめですよ、神様扱いしちゃ。 柳澤:ですよね。ちゃんとどちらも書いてあげないと。せっかくその人がやった偉大なことにもピントがボケちゃって、わかんないですからね。 樋口:それでは後世に語り継ぐことができないですよ。そこの宗派に入って信者として教祖について書いても偏るだけ。 柳澤:だと思うんですけどね。
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物語の最初と最後を結ぶ「中井祐樹」という存在
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1984年のUWF

佐山聡、藤原喜明、前田日明、高田延彦。プロレスラーもファンも、プロレスが世間から八百長とみなされることへのコンプレックスを抱いていた―。UWFの全貌がついに明らかになる。

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