精子量の結果に衝撃を受ける
40分後。夜勤明けのエリカも合流し、2人で待合室で待機する。
名前が呼ばれ、2人で診察室に入ろうとしたところ、看護師に止められた。
「奥さま(本当はセフレ)も一緒に入りますと、二人分の診察料がかかりますがよろしいでしょうか?」
「
お金かかるんですか?あ、じゃあ私いいです」
いいんかい!まあ、セフレだからそんなもんか。
一人で診察室の椅子に座った記者に、神妙な面持ちで弘兼憲史似の担当医があいさつをする。
「それでは、本日はパートナーさまはいらっしゃらないということでしょうか?」
「はい、待合室で待ってます」
担当医は、黙って検査結果の手のひら大の小さな紙をこちらに手渡してきた。
「
とても正常です。精子量、数、運動率ともに平均値を大きく上回っています。特に精子数は2億5000万ですから、平均の6倍。妊娠する上で、男性側としては特に問題はないです」
一気に安堵感が訪れた。
……ってか、そんなにあるの!?
検査結果。左に書いてある数値が妊娠するに十分と言われる正常値。これより数字が大きいとひとまず安心ということである
「では私が妊活をしたい場合、私のほうはしっかり射精をすれば問題ないということでしょうか?」
「基本的には。
しかし、射精したつもりの精子が稀に尿道、膀胱に入ってしまうケースもあります。最近、研究の結果でこの事象が意外に珍しくないことがわかりました。なので、うまくいかないこともあると思ってください」
「なんで尿道に精液がいっちゃうんですか?」
「ストレスが原因でなりやすいと言われています。男性側に射精感はあるものの、実は妊娠しないんです。これは女性の不妊検査をしてはじめて発覚します」
さらに、今後妊娠しやすい精子をつくる上で気をつけるべきことを聞いたところ、
食生活で精子量を増やすというよりは、睡眠をよく取り、お酒を飲みすぎない健康的な生活を送ることのほうが重要だと教えてくれた。
「ところで、本日は奥さまは検査されないんですか?」
「あ、そうですね」
「奥様が検査を受けていないのは珍しいですね」
「忙しいみたいで。また今度受けさせます」
たしかに、男だけ不妊検査を受けるってのは珍しいケースだろう。ツッコまれるのは当然だ。
担当医が続ける。
「やはり奥様にも検査を受けてほしいですね。
女性は不妊治療のプロセスがいくつもありますが、同時に複数の不妊治療ができないので時間がかかるんです。治療の時期で言っても生理前、生理中、生理後、さらには性交渉のあとにしっかり精子が滞留しているが診る検査もあって時間も手間もかかるんですよ」
話を聞いただけでも男性より女性のほうが苦労を強いられることがよくわかる。
「お兄さん、いま31歳ですよね? 子供をつくろうとしてなかなかできなくても、あまり悩まないでください。
一般に、人間のもっとも妊娠しやすい年齢は22~25歳なんですが、男女ともにこの年齢でも、妊娠する確率は3割強なんです。
つまり、若い人たちでも性交渉で妊娠するのは3回に1回程度ということ。
奥様が妊娠しやすい月1回のチャンスを狙っても、若い人でも3ヶ月目でやっと妊娠するのが普通のレベルなんです。人間は動物界の中でも妊娠しにくいんですよ。なので、31歳だと半年から1年は妊活すると思っていてください」
医師の話を聞き終わり、待合室でInstagramのSTORYを見ていたエリカと合流する。
「どうだったー?」
「まあ、メシでも食いながら結果は話させてよ」
丸ビルに移動し、グリル満天星で1600円のオムレツデミグラスを食べながら結果を伝えた。
「え?そんなに精子あるの?ヤバいじゃん!次からは絶対ゴム着けてよ!」
※ ※ ※
今回の顛末で得た教訓は、男性は子供を持ちたくても、持ちたくなくても、積極的に不妊検査を受けるべきということだ。
もし子供を持ちたい男性ならば、自分に何か原因があるのかを早めに知っておいて損することはない。複雑な治療を強いられる女性よりは不妊検査を気軽に受けられるなら尚更だ。
また、妊娠を望まない男性も、自分が妊娠させるリスクを持っていることを実感するためにも、不妊検査は積極的に受けるべきである。
ネットで「男性 不妊検査」と検索すれば、最寄りのクリニックはすぐに見つかるので、ぜひ検査してみはいかがだろう。<取材・文/原田ヨシアキ>