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なぜ加害者は匿名で被害者は実名?立川男女殺傷事件で改めて問う、実名報道の是非

立川で19歳少年が刺殺した風俗店の女性をめぐる報道が波紋を広げている。被害者が秘匿したいはずの実名を公表し、SNSまで晒す報道姿勢にどんな意義があるのか? 「報道被害」を知る当事者の話から問題点を探った。

被害者が風俗店従業の場合、実名公表は二次被害を生む

実名報道 実名報道すべき事件だったのか? 6月1日に東京都立川市で発生した男女殺傷事件をめぐる報道姿勢が大きな批判を浴びている。  この日、市内のラブホテルで派遣型風俗店で働く女性(31歳)が全身70か所を刺されて死亡。同じ店の男性従業員(25歳)も腹部を刺されて重傷を負った。残忍な犯行に衝撃が走ったが、さらなる衝撃を与えたのは現場から逃走した容疑者の素顔。年端もいかない19歳の少年だったのだ。  現行の少年法では20歳に満たない容疑者の実名報道を禁じている。だが、事件の10日前には改正少年法が成立。来年4月に施行される改正民法で成人年齢が18歳に引き下げられることに合わせて、少年法でも18~19歳を「特定少年」と位置づけることが決定した。  起訴されて刑事裁判の段階になれば特定少年の実名報道が認められるが、施行は来年4月。それを待たずして、『週刊新潮』が6月10日売り号で「事件の重大性を鑑みて」容疑者の実名報道に踏み切ったことは大きな波紋を呼んだ。  が、今回、大バッシングを浴びたのは、被害者の実名を報じたメディアが多数現れたことだった。犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が話す。 「風俗店に勤務する被害者女性の実名を報じれば、被害者家族まで不利益を被りかねない。被害者に子供がいればなおさらです。メディアは『職業によって実名か否かを判断することは職業差別に繋がる』という姿勢かもしれませんが、某ネットメディアは実名に加えて被害者のSNSまで公開したところ、批判コメントが殺到して、すぐに記事を訂正しました。被害者のプライバシーを侵害する実名報道は許されるものではありません」

風俗嬢の実名報道は“社会的な死”に繋がる

 今回の被害者の実名報道に対して、真っ先に非難の声を上げたのはセックスワーカーの支援団体「SWASH」だった。代表の要友紀子氏は「風俗嬢の実名報道は“社会的な死”を意味する」と話す。 「’13年に私たちが150人の風俗嬢に『何人があなたの仕事を知っているか?』とアンケートをとったところ、平均2人でした。知っているのは元同僚や所属する店舗の関係者だけと思われ、ほとんどの風俗嬢は家族に仕事を隠しているんです。  バレたら昼間の仕事に支障をきたし、家族から非難され、その家族も世間からよからぬ目で見られる可能性がある。SNSが浸透している今は、簡単に家族まで特定されてしまいますから。そんな秘匿性の高い情報をメディアが一方的に晒していいはずがありません。  だから、私たちは’17年の大宮風俗ビル火災事件のときにも警察に『被害者の実名を公表しないように』と要望書を提出したのですが……また同じ悲劇が繰り返されたことが残念でなりません」
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性風俗産業に関連する「報道被害」
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