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なぜ加害者は匿名で被害者は実名?立川男女殺傷事件で改めて問う、実名報道の是非

警察“広報”を垂れ流す日本のメディアの異常性を認識せよ

実名報道 なぜ、被害者が不利益を被るような実名報道が後を絶たないのか? 「報道被害」の造語を作り、その問題の深刻さを訴えてきたジャーナリストの浅野健一氏は日本の特異性に言及する。 「犯罪被害者に関する情報は警察が記者クラブに限定して“広報”するものにすぎず、“公表”ではありません。その広報をメディアが何も考えずに垂れ流すから、報道被害がなくならないのです。  一般に犯罪被害者が私人である場合、匿名の権利があります。OECD(経済協力開発機構)でも氏名などの個人に関する情報は当人がコントロールする権利があると規定しています。死亡被害者の場合は、死者の直近の遺族(喪主)が情報統制権を代行する。  だから、私人ならば被疑者であっても年齢に関係なく匿名を原則としている国も少なくありません。米英は実名原則と言われますが、被疑者の氏名を公表する場合には逮捕する側の公務員の氏名も明示されます。  一方、日本では遺族の意向を聞いて実名を広報するか否かを判断する警察が増えていますが、メディアの姿勢は変わっていない。日本だけが『警察が広報すれば自動的に実名報道する』異常な国なのです」

報道被害をなくすために

 その異常性に気づかぬメディアに問題があるという。 「5月には、覚せい剤取締法違反で逮捕されながら不起訴となったブラジル人夫妻が『地番まで書いて実名報道した静岡新聞にプライバシーを侵害された』と訴えた裁判で一部賠償を命じる判決が下されたのをご存じでしょうか? 警察の広報を垂れ流してもお咎めなしだったメディアの責任が問われたのです。  この原告代理人を務めた太田健義弁護士は、京アニ事件の被害者実名報道をめぐって大阪の司法記者クラブとの意見交換会に出席した際、記者が『被害者の匿名・実名について考えたことがなかった』と話すのを聞いて、のけぞったと言います。  考えたことがなければ、実名報道で被害者がどのような不利益を被るのか?と想像したこともないでしょう。問題意識さえ持っていない記者が大半なのです」  では、報道被害をなくすにはどうしたらいいか? 「日本弁護士連合会は’76年から匿名原則を提唱し、私は顕名基準を発表しています。欧州や韓国では①被疑者・被害者が公人か私人か、②嫌疑・被疑事実が職務に係るのかプライベートなことか、③刑事手続きがどこまで進んでいるかの3つで顕名か匿名かを判断します。日本もその基準を取り入れるべき」 【浅野健一氏】 共同通信で社会部記者、外信部デスクなどを歴任。’84年には『犯罪報道の犯罪』を発表。退職後は同志社大学大学院教授を経て、ジャーナリストとして活躍 <取材・文/吉岡 俊 池垣 完(本誌) 写真/小川泰平 朝日新聞社 産経新聞社>
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