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なぜ加害者は匿名で被害者は実名?立川男女殺傷事件で改めて問う、実名報道の是非

性風俗産業に関連する「報道被害」

実名報道

毎年9月1日を前に、歌舞伎町ビル火災現場には献花台が設けられ、多数の花が手向けられる。写真は事件から15年となる’16年のもの

 このような性風俗産業に関連する「報道被害」で記憶に新しいのは’01年の歌舞伎町ビル火災事件だろう。事件を知るノンフィクションライターの中村淳彦氏が話す。 「風俗店やキャバクラなどが入った雑居ビルで44人が死亡。被害者の風俗嬢や客が実名報道されたことが問題視されました。  ただ、それ以上に悪質だったのは、’10年の池袋出会いカフェ殺人事件。売春していた被害者の女子大生(22歳)の実名や顔写真、ラブホテルでの加害者との生々しいやりとりなどが克明に報じられ、被害者を貶めるような意見も後を絶たなかった。  さらにさかのぼると、’02年にはAV女優・桃井望が焼死体で発見された事件でも彼女の本名が報じられ、それをきっかけに両親が行方をくらませる騒動がありました」

京アニ事件でも…

実名報道

’19年7月18日、犯人は京都アニメーション第1スタジオにガソリンを撒いた後、ライターで着火。36人が亡くなり、スタジオは全焼

 もちろん、性風俗に関係なく、報道被害は発生している。象徴的なのは36人もの命を奪った京都アニメーション放火殺人事件だ。事件直後から京アニ被害者の取材に奔走した週刊誌記者が話す。 「犠牲者の名前を公表しない京都府警に対して、メディアが身元を公表するよう申し入れ書を提出するなど、両者はかなり揉めました。事件から半月後に一部の被害者の実名が”広報”されましたが、多くの遺族が公表に反対したために、取材陣が特定の遺族に集中。その報道姿勢が大きな反発を呼びました。  事件から1年後に取材に応じてくれた孫を亡くした高齢男性が、『私が喋るから娘夫婦(犠牲者の両親)には行かないと約束してくれ。おたくらに娘は追いかけ回されて、錯乱状態になって失語症のようになってしまったんだ』と話していたことは忘れられません」  取材攻勢に晒される遺族の心労は計り知れない。関東の某県で複数人が殺害された事件で妻子を亡くした男性も次のように話す。 「事件直後から自宅は取材陣に囲まれ、実家には記者が上がり込んでいた。母を説得して娘の写真を借りようとしていたのです。兄に有名歌手のコンサートチケットを渡して、私の取材をセッティングするよう交渉するテレビ局もありました。事件現場となった自宅を事故物件として紹介するネットメディアもあった。その影響で事件からしばらくたってからも、野次馬が見物に来ていました……」
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時に被害者とその家族の尊厳をも傷つける報道
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