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紅白歌合戦、旧ジャニーズはゼロだが「意外な歌手」も「斬新な試み」もナシ。もはや新鮮な“やる気のなさ”

テーマの「ボーダレス」にも表れた“やる気のなさ”

マイク

写真はイメージです

 そう、今年はジャニーズがいなくなっただけなのですね。そしてそのことによってグレードアップしたわけでもダウンしたわけでもない。それは芸能ニュース的には大きな変化であっても、音楽番組の本質に関わるものではありません。  皮肉な見方をすれば、ジャニーズ枠が消えたことで、“K-POP枠”とか“アニメ枠”といった数合わせがより鮮明になりました。いままで批判を一身に受けてきた最大派閥が消滅したことで、派閥順送り感がより強まったのです。  そうなると加速度的に紅白の形骸化が進むのではないでしょうか。それはテーマの「ボーダレス」の質素なロゴにあらわれています。デザインする気力すら失った字体。そもそも日本と韓国の歌手しかいないのに「ボーダレス」なんて言われても……。  でも、このやる気のなさは新鮮です。ジャニーズという重石がなくなったおかげかはわかりませんが、あの「ボーダレス」ロゴには抜け感があります。しかもただ脱力しているのではなく、毎年文句を言う視聴者に向けて、“お前らギャーギャー言うけどこっちだって飽きてんだからな”という開き直りすら感じる。  はっきり言って、楽しませることを諦めたようにしか見えませんでした。けれども不思議と清々しい。みんな薄々気づいていた紅白の終わりにとうとう向き合ってくれた安心感なのでしょうか。

ついに“紅白の終活”に取り掛かった?

 今年のラインナップでなんか言ってやろうと手ぐすねを引いていた筆者ですが、その気持ちは萎えました。そうすることが不粋であるというよりも、“一線から降りた”ものを論じるのはフェアではないと思ったからです。  ジャニーズによって保ってきた張り合いが、今日というたった一日あっけなくしぼんでいった。時代の終わりを痛感したのです。  これから数年かけて紅白歌合戦はフェイドアウトしていくのでしょう。その後、新たなプロジェクトが立ち上がるのか、日本の大晦日から音楽番組がなくなるのかはわかりません。  始まりがあるものには、すべて終わりがある。誰もなくなるとは想像すらできなかったジャニーズ事務所が消滅した2023年。紅白歌合戦も同様です。  ジャニーズなき紅白は、ついに終活に取り掛かったのだと思います。 文/石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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