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大規模特殊詐欺「ルフィ」を壊滅させた2人の女②〜ルフィの愛人となった女

不仲な家

 東京・多摩地域にある東大和市。南北を走る多摩都市モノレールの駅からほど近いところに柴田の実家が存在していた。しかし、そこは多感だった年ごろの柴田にとっては暗澹たる思い出を紡いだ場所だったようだ。近隣住民が明かす。 「そういえばそういう子いたな、という印象しかないです。少なくとももう10年は見かけていないです。実家もまだあるのか、誰が住んでいるのかすらわかりません……」  最初は、けんもほろろな対応だったが、粘って話をつなげると、絞り出すかのように古い記憶をたどってくれた。    柴田の家庭は近所では不仲で有名だったという。両親の怒鳴り合う声が聞こえることもしばしばだった。 「いつしかそれがなくなったと思ったので、離婚したんだろうな、と思ったんです。そして父親らしき人物を見ることもなくなりました」  まだ柴田が幼少期の話だ。そうして母子家庭になったのだが、母親は生計を立てるのに精一杯だったのだろうか。柴田は母親に構ってもらえなくなっていったという。小学校4〜5年ごろには、何日も同じ服を着ていたようで、不潔な姿で学校に通う姿を住民は覚えていた。今で言うネグレクトに近い状態だった。 そうした姿で登校すれば、いじめに遭うのではと、筆者は思ったのだが、同級生のA子はそれを言下に否定した。同級生たちが柴田を白い目で見ていたのは事実だが、柴田はそんな同級生たちの視線を敏感に感じ取っていたのだ。 「千晶は決していじめられていたわけではないです。ただ親友と呼べるような友達はいなかったと思います。自分から心を開くタイプではないですから。同窓会をする段になっても、誰も連絡先を知らなかったですからね。それなら『まぁいいか』で終わっちゃうような存在です。ただ、なんというか……他人との壁は千晶自らが築いていたように思えます。他人に『これ以上私に構わないで』という空気を醸し出していた。それが彼女なりの処世術だったのかもしれないですけど……」  柴田はクラスメイトともつかず離れずの距離を保つ子どもだったという。そこを離れても、傷つかない距離を本能的に見いだしていたのだろうか。それでもA子は、一度だけ柴田の本音を聞いたという。

写真はイメージ

「中学校時代、帰り道だったかな、その日たまたま千晶とふたりきりで帰っていて、お互い家が近づいて、バイバイしようとしたとき、千晶がふと『寂しいな』ってつぶやいたんです。いじめられてはなかったけど、友達の輪に入らないようにしている雰囲気があったし、普通の家庭じゃない、というのはみんな知ってたから。なんかその『寂しいな』というひと言に、いろんな意味があったように思えて……今でも覚えてるんですよ」  そもそも本音を語り合うほど特別に仲がよかったわけではないが、柴田がなぜ自分にこんなことをつぶやいたかは理解できなかった。  しかし、「寂しいな」という消え入りそうな声が今も耳に残っているという。  筆者はそんなA子に単刀直入に聞いた。「どうして事件を起こしたと思いますか」と。 (次回に続く) 取材・文/週刊SPA!特殊詐欺取材班 写真/PIXTA
『週刊SPA!』誌上において、特殊詐欺取材に関して、継続的にネタを追いかける精鋭。約1年をかけて、「ルフィ」関係者延べ百数十人を取材した
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「ルフィ」の子どもたち 「ルフィ」の子どもたち

「ルフィ」事件にかかわった
実行犯12人の素顔

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