10月22日、オイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブの橋上秀樹監督の退任が発表された。来季からは巨人の一軍コーチに就任するとの報道もあり、実現すれば旧知の存在である阿部慎之助監督の右腕として豊富な経験を活かすことになる。 監督を務めていた野村克也氏のもと、楽天でコーチとしての経験を積んだ橋上氏。巨人のユニフォームに袖を通していたのは、2012年から14年のシーズンになる。当時のフロントからお声がかかった際、巨人の野球を間近で見られることは、ひとりの野球人として大きな財産になると確信していたという。 そして実際に現場で働いてみると、数多くの驚きと気付きがあったそうだ。今回は、長きにわたって主力として活躍する坂本勇人についてのエピソードを『だから、野球は難しい』（小社刊）から紹介する。　※本記事は同書より抜粋し、適宜編集を加えたものである 阿部や長野久義と違って、データそのものにあまり関心を示さず、己の力で打撃技術を伸ばしていこうとしていたのが坂本勇人である。坂本の第一印象は、「若い頃の池山（隆寛）に似ている」と感じた。私とはドラフトで同期入団の池山（1983年のドラフトでヤクルトから池山が2位、筆者が3位指名）と同じく、兵庫県出身で強肩強打の遊撃手。これらの共通点に加えて、華がある。それでいて、性格的にも少々やんちゃな面があるように見えたので、プロの世界では手こずるのではないかと思っていた。 ところがそれは杞憂に終わった。練習は一生懸命やるし、裏方の人にまで気を使える一面も持っていた。彼は原さんの2度目の監督時代にドラフト1位で獲得（2006年）しただけあって、目をかけられていたというし、その分厳しく鍛えたとも聞いていた。それだけに、巨人の主力選手としての自覚もさることながら、「もっとうまくなりたい」という高い向上心を持っていたように思えた。 ただ、彼自身はデータというものを活用しようとは思っていないところがあった。入団2年目から遊撃手として巨人のレギュラーを張り続けて、2012年シーズンに6年目を迎えていた彼は、「自分の技術を磨き続けることが、成績向上につながる」と考えていた。 もちろんその考え自体は正解だ。それだけに、坂本のような考えの選手には、私からあえて積極的にアプローチするようなことはせず、こちらの考えに興味を示してくれたときにいろんな話ができればいいと、当初は考えていた。 実際、私のデータにすばやく興味を示したのは、阿部であり、長野だった。彼らがベンチであれこれ聞きにくる姿を、坂本は遠くからじっと見ていた。その視線を何となく感じながらも、私から坂本に話しかけることはなかった。 開幕してから4カ月経った7月のある日、坂本から私に「ちょっといいですか」と話しかけてきた。聞けば、相手投手が投げてくる外の変化球にどうしても対応できないというのだ。