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「街中の大麻ショップは今も通常営業」タイの大麻再規制で“2000億円市場”はどこに向かうのか

 タイはアジア圏でいち早く大麻規制を緩和した国だ。2019年ごろから医療目的の処方に関して解禁となり、22年6月には違法薬物などのリストから除外されたことで個人的な使用もまた自由になった。
タイの街中

大麻の葉を模した看板はもはやタイの市井の風景の一部になった

 ただ、本来は当初の目的どおり医療使用での合法化なのだが、違法薬物リストから外れたことを愛好家が拡大解釈し、大麻が解禁状態になってしまったのだ。娯楽目的の使用が広がり、市内のあらゆる場所に大麻ショップが乱立している中、実質的な解禁からちょうど3年の25年6月26日、タイ政府は再び大麻規制を始めた。  今後はどうなっていくのだろうか。今回は、タイ在住の筆者(髙田胤臣)が見た現地の大麻事情をリポートする。

大麻解禁を喜んでいたのは外国人だけ?

大麻ショップ

大麻ショップはほとんどが英語など外国語の看板を前面に出す。日本語を掲げる店もある

 大麻解禁のニュースは2022年当時、世界中を駆け巡り、特にバックパッカーやタイ好きの大麻愛好家は歓喜した。実際、今もタイ国内の津々浦々に至るまで大麻の葉を模した看板を掲げる店であふれている。  ただ、実際問題、タイ人も大麻解禁に喜んでいるかというと、実はそうでもない。というのは、タイ人は意外と保守的な気質が強く、これまで大麻は禁止されていた植物、違法薬物などの一覧にあったものなので、いきなり自由にするのはいかがなものかという意見は多い。  特殊な見解としては、タイ人の特に北部や東北部の田舎出身の50代以上の人にとっては「なぜ大麻を買うのか理解できない」というのもある。そもそも温暖な気候であるタイでは自然に大麻が育っている場所があって、昔の若い人たちはそれを採って遊んでいたようだ。タダのものをわざわざ買うなんて、という。  若いタイ人に好まれる違法薬物も大麻ではなくここ20年ほどはアイス(覚せい剤の一種)だとされる。解禁でたしかに大麻に触れるタイの若者も増えたことは間違いないが、ほとんどの大麻店で見受けられる顧客は外国人が多い印象である。 「うちの店では店内で吸ってもらうか、ホテルなどで吸うようにお願いしています」  と、バンコクでショップを経営する東南アジア系外国人が話す。この店は外国人経営ということで近隣や通行するタイ人とのトラブルを恐れているのもあるが、彼ら曰く「タイ人は大麻が嫌い」なのだとか。  もともと無料だったものを、変動はあるものの高値止まりの大麻に手を出したいと思う人も少ないのかもしれない。そもそも好まれず、かつ禁止されていたことでタイ国内には大麻育成のノウハウがほとんどなく、タイ産大麻はあまり人気がない。そうなると外国からの輸入物が中心になってしまい、仕入れ値そのものも高い。
タイの大麻

タイの大麻はまだ育成ノウハウが少なく、外国産の品質にはおよばないと愛好家はいう

 そのため、22年から乱立した大麻ショップもだいぶ淘汰され、それなりの仕入れ先や資本力がない店は次々に閉店している状態だ。

日本人の病院搬送もしばしば

 外国人の大麻愛好家にもトラブルは尽きない。ある警察関係者が話す。 「報道はされていないが、大麻吸引で酩酊して保護されたり、過剰な吸引で病院に搬送される外国人も少なくない」  日本人の若い人でも実は相当数、病院に担ぎ込まれているのだとか。違法でなくなったため、ただの体調不良の扱いになるのか報道もされない。筆者の知人も初めて大麻に挑戦した際、2口ほど吸っただけですっかり意識を失ったかのようだった。あとで聞いてみると、意識はあって声などは聞こえるし思考もしっかりしているものの、身体が動かなくなってしまったそうだ。  タイ在住経験があり、若いころにはアメリカの大学に留学していた大麻愛好家はこういう。 「アメリカの大学寮は“歓迎”と称して大麻が回ってくるんですよ。最初はみんな、ぶっ倒れてしまいますが、徐々に吸い方がわかってきます。大麻はなんの知識と経験もなくやるものではないのです」  一見、もっともイージーな薬物のようにも見えるが、そういうものではない。日本の若い人が興味を持ってタイで挑戦したい気持ちもわからなくはない。よく、大麻は依存性が低いとか、ほかの薬物にエスカレートしていくようなゲートウェイ・ドラッグではない、と愛好家はいうけれども果たしてそうであろうか。  バンコクの安宿街カオサン通りで大麻を覚え、そこから最終的にヘロインにまで手を出し、殺人を犯した人を筆者は知っている。  こういったトラブルや国民感情を踏まえて大麻は再び禁止されることになった。ただ、医療目的での使用は継続されるので、市井のショップで購入するには医師の処方箋が必要である、ということになっている。とにかく、ただ吸いたい人がタイに来ても、もう大麻は吸えなくなったのだ。
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規制されたのに普通に営業
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髙田胤臣(たかだたねおみ)。タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に彩図社「裏の歩き方」シリーズ、晶文社「亜細亜熱帯怪談」「タイ飯、沼」、光文社新書「だからタイはおもしろい」などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。YouTube「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中

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