花形だった原宿・美容師たちの過酷な現実【後編】

 10年ほど前の原宿と言えば、カリスマ美容師に裏原系ファッションと、ファッションの聖地として、そのカルチャーの発信地としての地位を揺るぎないものとしていた。だが、今の原宿はと言えば、どうにも様子がおかしいようだ。

 ネットの通販や地方の量販店で裏原系ブランドが買える時代になり、加えてここ数年、原宿で育った美容師の原宿離れが加速している。今や原宿は撤退した美容院の空きテナントが大量に発生しているのだ。だが、かといって廃墟だらけではないというから不思議である。おまけに賃料自体は下がることなく上がり続けている。原宿の美容院事情に詳しい人物に話を聞いた。


【前編】はこちら⇒http://nikkan-spa.jp/250045

「確かに原宿から美容院は撤退する数が増加傾向にあることは事実です。しかし、その裏では開店ラッシュでもあるのです。矛盾するようですが、事実なのです。撤退するのは大きく分けて2つ。1つは営業的に行き詰まったり、移転していった個人店。そしてもう1つは大手チェーン店が経営縮小のために2号店、3号店を締めるケースです。こうした居抜き物件にどんどん美容院が入っていくのです」(事情通A氏)

 ここで【前編】で話を聞いた原宿で美容院を営む高橋浩さん(仮名・43歳)に再度ご登場願おう。

「昔は美容院が開店したら、どこの誰が店出したってすぐわかったんです。ああ、●●で修行してたヤツね、みたいな。でも、ここ数年、あの店は誰が出したんだ?ってとこが増え始めたんです。それで出入りしているシャンプーやパーマ液を扱う美容商社の営業を捕まえて話を聞くと、『あれは●●県の一番大きいチェーン店です』って言うんですよ」(高橋さん)

 なんと地方の美容院チェーンが大挙して原宿を目指しており、撤退ラッシュの裏側では、開店ラッシュが引き起こされていたというワケである。では、なぜ地方の美容院チェーンの原宿出店が増えているのであろうか。またまた事情通A氏に登場していただろう。

「都内やその近郊では、原宿のブランド力が低下していますが地方ではまだまだ通用しています。原宿出店は言うなれば“箔を付ける”ことに他なりません。『当店は原宿に出店しています』と言えば、田舎じゃまだまだ客が呼べるというワケです。中には支店として原宿に店を出して、ちゃっかり本店を名乗り、田舎ではあたかも原宿に本店がある美容院として看板を掲げたりしているのです」(事情通A氏)

 地方の原宿信奉は未だ衰えず。岩手県にUターンした美容師の宮本広子さん(仮名)も、地方における原宿のブランド力を体感した一人である。

「体調を崩して2年前、10年間勤めた原宿の美容院を辞めて実家の岩手に帰ってきました。帰る前はひどい不況だし、美容院もそんなにないから仕事もないだろうし、落ち着いたら親に借金して近所に店を出して細々とやればいいと思ってたんです。しかし、帰ってきて一月も経つと私が帰ってきたという噂が地元の美容師仲間の間で広がり、連日いろんな美容院から『ウチで働いてほしい』という勧誘の電話がひっきりなしにかかってくるようになったのです。要するに、原宿で10年間勤め上げた美容師がウチにいます!ってことで、お客さんが呼べるんですよ。原宿ではカリスマ美容師になれなくても、地方に行けば原宿出身というだけで、まだまだカリスマになれるのです」

 話を戻そう。原宿における地方チェーン店の旗艦店開店ラッシュに高橋さんの顔色は曇るばかりだ。

「こっちは個人店、むこうは基盤も資本もしっかりしている。おまけに原宿はハクを付けるだけだから儲からなくてもいいんです。その結果、強烈な価格破壊が起きたんです。例えばこれまでの原宿の平均がパーマとカットで15000円だとすると、連中はカットとパーマで1万円以下、ヘタするとそれ以下の8000円とかだったりするんです。これじゃ太刀打ちできません」

 こうした価格破壊によって、個人店は大打撃を受けているという。そして、この地方チェーン店の原宿進出には、さらに大きな裏事情があるという。

「東京、それも原宿で店を出すことで理美容専門学校の学生を大量に雇い入れることができます。ある地方チェーンは原宿店の名前を前面に出して新卒採用を行い、雇い入れた大半を地元の各店舗に送り込んでいるのです。50人近く新卒を雇い入れ、そのうち原宿勤務はたったの2人。残りは全て地方の店舗にブチ込まれた……なんて話を耳にしたこともあります」(事情通A氏)

 夢の原宿勤務を実現させたと思いきや、縁もゆかりもない田舎町に送られるとは現代版蟹工船、タコ部屋残酷物語に他ならない。

「地方は美容師不足なんです。そもそも美容師って専門学校を出て、入店しても2~3年後には7割が離職したりする世界です。5人雇って3年後に1人残ればラッキー、2人残れば超ラッキー、3人残れば奇跡とすら言われる業界です。だからこそ、チェーン店では大量の新人の採用が急務なのです。そして辞めようとすれば『もう少し頑張れば原宿に戻れるから』と言いくるめて、コキ使い続けるというわけです。もちろん、原宿になんか戻れませんけど……」

 混沌とする原宿美容業界に未来はあるのだろうか……。 <取材・分/SPA!原宿特捜班>


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