伊良部秀輝の“遺言”「父親がアメリカ人とは知らなかった」
野球界のみならず、伊良部秀輝さんが亡くなったという知らせは、日本中に衝撃が走った。本誌は、伊良部さんが亡くなる約1か月前、彼が静かに暮らすロサンゼルスにて、4時間にわたり現在の心境を聞いた。謂わば“遺言”ともいえる渾身のインタビューを全文掲載する。
この最後となってしまったインタビューは、ジャーナリストの田崎健太氏が行った。
――今でこそ、メジャーリーグで日本人がプレーするのは普通になりました。1997年に伊良部さんが移籍したときは、大騒動になりましたよね。
伊良部 「伊良部問題(※1)」って当時は言われましたけれど、あれは本当に伊良部の問題だったのかって言いたかったですよ。日米の法律の問題で、パドレスとロッテの問題でした。
――ロッテからパドレスへの権利譲渡(※2) はテレビのニュースで知ったとか。
伊良部 そうです。テレビを見ていたら、パドレスの社長とロッテのオーナーが握手をして、パドレスに行くと話していて、驚きました。
――伊良部さんはヤンキースにしか行きたくない。このトレードは無効だと突っぱねた。新聞の見出しに「ワガママ伊良部」なんていうのもありました。
伊良部 ぼくだって、ルール違反して行きたいとは思っていなかったですよ。その前に、球団はヤンキースに行かせる約束をしていた。それは守られなかったんです。ルール(※3) として、1年間浪人すれば、任意引退選手となって、どこの球団とでも交渉できる。そうしたいと思っただけ。新聞記者の方に、重要なことは曲げないで書いてほしいと、こうした資料はお渡ししました。それなのに……これは手に負えんと思いましたよ。そのとき思ったのが、野球ボールはコントロールできるけれど、メディアはコントロールできない(笑)。
◆父親がアメリカ人とは知らなかった
――伊良部さんがそこまでメジャーリーグにこだわるのは、お父さんを捜しにアメリカ(※4) に行くためだという報道もありました。
伊良部 (驚いた表情で)誰がそんなことを言い出したんですか? それは事実ではないです。だって、ぼくはアメリカに行くまで、自分の本当の父親がアメリカ人ということを知らなかったですもの。
――えっ?
伊良部 ヤンキースに入ってから……98年のキャンプのときに、球団から連絡があって、ぼくの父親だと名乗る人間が来たと。びっくりしましたよ、父親だって言うから。
――会ったんですか?
伊良部 はい。それから、母親に確認したんです。そうしたら、そうだって。それまでは父親がアメリカにいるなんて、考えたことがないですよ。でも面白いですね、ぼくがどうしてもアメリカに行きたかった理由が、父親に会いたかったからなんて。
――実のお父さんに会われてどんなふうに思われました?
伊良部 これといった感情はなかった。生みの親より育ての親みたいな。今も年に2回ほどは連絡を取り合ってますけど、それだけです。
※【中編】につづく
※1 伊良部問題
96年のシーズン終了後の11月、伊良部はメジャーリーグへの移籍を求めて、ロッテのオーナーに直訴。当時、一軍登録から10年でFAの権利を取得できたが、伊良部はこの年で9年目だった。12月にロッテは、メジャー移籍を認める代わりに、チーム選択、年俸交渉を一任する覚書にサインするように強要。これを伊良部と代理人の団野村は拒否した
※2 パドレスへの権利譲
97年1月10日、ロッテの重光オーナーは伊良部 を呼び出して、パドレスへのトレードを通告。伊良部は「約束していたヤンキースではない」と拒否した。1月13日、パドレスとロッテの業務提携を発表。その業務提携書の中に、伊良部の権利をすべてパドレスに「譲渡」することが含まれていた
※3 ルール
日米コミッショナーの取り決めで、1年間浪人すると、自由契約選手扱いとなり、どこのメジャーリーグ球団とも契約できることになっていた。メジャーリーグ選手会は、伊良部の主張を支持。旗色が悪くなったロッテとパドレスは、伊良部をヤンキースへと三角トレードして解決した
※4 お父さんを捜しにアメリカ
ロバート・ホワイティングは『日出づる国の「奴隷野球」』の中で、伊良部がスポーツライターに「いつか、アメリカへ渡って有名な選手になりたい、そうすれば実の父親に会えるかもしれない」と明かしたと書いている。また夕刊紙にも同様の報道があった

週刊SPA! 7/19号(2011年)「エッジな人々」より
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『伊良部秀輝ラストインタビュー』 誌面未公開部分も含めて、完全ノーカット版でお届け
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