第23回 世界コンピュータ将棋選手権【二次予選観戦記】

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 2日目の二次予選からは強豪ソフトも続々登場し、まさにガチの勝負になる。とはいえ対局するのはソフト同士なので、開発者同士は談笑しながら火花を散らす。そこかしこで「強いですねえ」「いやいやそちらこそ」といったやりとりがくり広げられ、人間同士の対局とは異なる選手権独特の空気感を形作っていた。

 二次予選で注目されていたのは、長年にわたって強豪ソフトの一角として認知されていながら、昨年の選手権で振るわなかった「激指」と「Bonanza」の動向だ。特に「激指」は、最近の「floodgate」でもトップクラスの成績をおさめており、躍進が予想されていた。また昨年まさかの二次予選での敗退を喫した「Bonanza」も、捲土重来を図るべく気合が入っていたはずだ。

 二次予選の結果を先に書いてしまうと、前評判通り「激指」が1位通過となり、「ponanza」と「GPS将棋」が続く形になった。ただし「激指」と「ponanza」と「GPS将棋」の3ソフトは、それぞれ3すくみのように互いに勝ち星を分けあっており、関係者の間では実力的にはほとんど変わらないのではないかとの評判であった。

 以下の順位は「Bonanza」「ツツカナ」「NineDayFever」「習甦」「YSS」と続き、電王戦登場ソフトは今回不参加の「Puella α」(※)を除いてすべて決勝に進出するという順当な結果に終わった。一次予選組からは「NineDayFever」が初参加で決勝進出という快挙を成し遂げ、気を吐いていた。

※『第2回 電王戦』第4局の終局後「Puella α」開発者の伊藤英紀氏は「ちょっとゆっくりしたいかな。電王戦は2回も出たので、ほかの人にお任せします」と話していた。

 強力なコンピュータ将棋ソフト同士の対局では、電王戦でも見られたとおり、とにかく無茶じゃないかというくらい強気の攻めや謎の序盤戦術、人間にとっては意外な指し手が双方から矢継ぎ早にくり出される。しかも選手権の持ち時間はそれぞれ25分で、時間切れになると即負けという「25分切れ負け」ルールである。

 来場したプロ棋士たちやアマチュア強豪からは「なんだこりゃ!」「これでいけると読んでるんだよね?」「こうなったってことは、さっきの手はアリなのかな?」といった声が頻繁に上がるが、指し手の善悪が判然としないままに決着してしまったりもする。

 将棋において、基本的にコンピュータは局面を可能な限り「ベタ読み」して、一番評価が高くなる手を指すという比較的シンプルなアルゴリズムになっている。対して単純な計算スピードで劣る人間は、「大局観」と呼ばれる経験的で複雑な直観に基づき、読む局面の数を減らしている(※)。このため、人間は読み抜け(ミス)の可能性はあるが、持ち時間が長ければコンピュータより先の局面まで見ることも可能だ。

 しかし、その「大局観」にない別の手が飛び出し、しかもそれが有効な手だった場合、人間はもう一度すべて読み直しになる。こうなると「大局観」が悪い意味での「先入観」になってしまうのだ。

※もちろんコンピュータも「大局観」のような局面の分岐の「枝刈り」は行っているが、人間のほうがはるかにこの傾向が強い。勝負が2転3転した『第2回 電王戦』第3局は、コンピュータと人間の双方のアルゴリズムの良い面と悪い面の両方が出たと考えることができる。

 有効な局面数が減る終盤はどのソフトも正確で強いので、たいていは負けたほうがその前のどこかで悪手を指していることになる。だが、持ち時間が少ないコンピュータ同士の戦いでは、人間にはどこが悪かったのか、すぐにはわからない。特にアマ初段もあるかどうかという「観る将」(※)の筆者にとっては、まさに人知を超えた戦いを呆然と見守るような二次予選であった。

※「観る将棋ファン」の略。従来の「指す将(棋ファン)」に対して使われるようになった言葉で、将棋のインターネット中継が始まってから、急激にその数が増えていると言われる。

 そして決勝では、その「25分切れ負け」ルールが思いがけないドラマをもたらすことになったのである。 <取材・文・撮影/坂本寛>

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◆第23回 世界コンピュータ将棋選手権
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