今の時代劇に欠けているのは「キャスティングの妙」?【飯田泰之×春日太一 対談】

エドノミクス 歴史と時代劇で今を知る 時代劇は面白くないと言う人の多くは、時代劇に馴染みがないから。テレビの地上波では連続ドラマとしてはNHKの木曜時代劇と大河ドラマしか放送していないわけで、それも致し方ないようにも思うが……。それでもやっぱり、「もっと時代劇を見てほしい」と、『エドノミクス 歴史と時代劇で今を知る』の著者、エコノミストの飯田泰之氏と時代劇研究家・春日太一氏は言う。

 そんなふたりが、時代劇の新たな可能性として「日本版ポリティカルサスペンス」を提言。そして、次に必要なのは、圧倒的な「悪」の存在だという。

⇒【前編】『若い世代は本当に“時代劇離れ”しているのか?』
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◆自動仕分け的なキャスティングのがっかり感

飯田:時代劇の江戸の町並みが文化文政期の風俗がベースになっているのは、撮影所のセットの問題もあるんだろうけれど、やっぱり、文化文政が時代としてニュートラルだったからなのかなって思うんです。経済的にもそこそこよく、そこそこに安定している。そんな、ニュートラルな時代だからフィクションをのせやすい。いくら、時代背景をトバすといっても、幕末が舞台の物語で黒船来ているのを無視するのは、相当な筆力が求められるわけだから。

春日:でなければ、『遠山の金さん』のように、完全なファンタジーにするかですね。

飯田:『遠山の金さん』が残念なのは、敵役の鳥居耀蔵が地味なことなんだよね。田沼意次や吉良上野介のようにキャラがたってない。巨悪と言われたら巨悪なんだけれど、そんなめちゃくちゃ悪いわけではない。

春日:小池和夫の『御用牙』の鳥居耀蔵は、むちゃくちゃ、キャラが立ってましたね。銀髪で本当に妖怪に変身する。ああいうハッタリのかまし方は面白いですね。

飯田:やっぱり、時代劇の復活には、巨悪キャラが必要なんじゃないかな。

春日:江戸のミスター巨悪と言えば、柳沢吉保、田沼意次、水野忠邦、このあたりですよね。松平定信の場合もありますけど。あるいは、四代時代の大老。酒井忠清、堀田正睦。名前もエラそうですし。

飯田:どの時代の誰を巨悪にするか、みんなで考えてほしいな。

春日:そうですね。「自分の中でのベスト忠臣蔵キャスティング」を考える文化がかつてありました。あれをみんな、他の歴史上の人物でもやってしてほしい。僕は歴史の勉強で人名を覚えるときどうやったかというと、自分で俳優をキャスティングしながら覚えていったんです。例えば、「下馬将軍・酒井忠清」だけだと、なかなか記憶に残らない。でも、このキャラクターを成田三樹夫がやると“下馬将軍”感が出るな、とか。そこで酒井忠清に対して印象が生まれるので、覚えられるんです。

飯田:絵が浮かぶからね。教科書の肖像画なんて、みんな一緒で区別がつかないし(笑)。

春日:巨悪も、たとえば忠臣蔵なら側用人・柳沢吉保は、岡田英次とか、石坂浩二とか、かつてはいろんなパターンがありました。ただ、今、巨悪ができる役者が減ってしまって、だいたい、北王路欣也か津川雅彦。

◆堺正章の“悪”が見てみたい

飯田:どちらに任せても、間違いはないのはわかるけど、そろそろ代替わりを始めていかないとね。50~60代で誰かいないかな?

飯田泰之×春日太一

「役者さんがバラエティに出て親しみやすくなる一方、物語での凄みがうすれる」(飯田)。「思い切ったキャスティングがあったほうが面白い」(春日)

春日:その世代だと、草刈正雄とか近藤正臣になるんですよね。一時期、近藤正臣がいいと大河がいい、という「近藤正臣の法則」というのが僕の中であったんです。『龍馬伝』での山内容堂に、NHKのBS時代劇『火怨・北の英雄 アテルイ伝』での桓武天皇。あんな悪い天皇初めて見たましたが、さすがにカッコよかった。ただ、そんな近藤正臣も朝ドラの『ごちそうさん』の影響もあって、いい人のイメージになりつつありますけれど。

飯田:誰がいいのかな。

春日:昔は、岡田英次や小沢栄太郎、東野英治郎など、実際に劇団の重鎮な役者が悪を演じることが多く、彼らは言ってみれば、実際の組織の頭領なわけです。

飯田:実社会でもエラくて、重みがあって、上手で……っていう役者さんは少ないよね。

春日:今は主役から回ってくるパターンですね。北大路欣也や松方弘樹はスターで育った方でもあるのでどこか超然とした感じがある。平幹二朗もそうですが、たたずまいに日常性がないほうが巨悪っぽさは出る。

飯田:今、役者さんはバラエティ番組にもよく出ていて、親しみやすさで売るからね。身近な存在で日常感はあるけれど、物語の中での凄みはそのぶん、薄れてしまう。

春日:個人的に観てみたいのが、堺正章の巨悪です。一見、人は良さそうに見えて、裏ですべてを牛耳っているというような役にはピッタリだと思います。

飯田:ああ、いいね!

春日:堺正章、本当に怖い雰囲気あるじゃないですか。そこに話をもっていく勇気がプロデューサーにあるかどうか。結局、そこなんですよね。プロデューサーのセンスの問題というか、発想がそもそもいかないんじゃないでしょうか。巨悪だから津川さん、巨悪だから北大路欣也と単純な選択になっている。

飯田:自動仕分けみたいなもんだね。

春日:本書でも語っていますが、NHK大河の『峠の群像』で伊丹十三を吉良上野介にもってきたり、『独眼竜政宗』で勝新太郎を秀吉にするとか、思い切ったキャスティングがあったほうが本当に面白い。観る側としても、それを考えるのが一番、楽しいんですよね。昔はよく、「俺の大河のキャスティング」って考えたんですよ。来年の大河ドラマのテーマが発表されると、自分でそのキャスティングを想像する。でも、正直言うと、最近は「どうせ、たいして面白くならないから」と、あまり期待しないでおこうと思ってしまう。そこも今、時代劇の寂しいところではありますね。

●飯田泰之 http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/
1975年、東京都生まれ。エコノミスト、明治大学政治経済学部准教授。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『NHKラジオビジネス塾 思考を磨く経済学』(NHK出版)、『図解 ゼロからわかる経済政策』(角川書店)、『思考の「型」を身につけよう』(朝日新聞出版)、『世界一わかりやすい 経済の教室』 (中経出版) 、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『夜の経済学』(扶桑社)など

●春日太一 http://jidaigeki.no-mania.com/
1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。日本大学大学院博士後期課程修了(芸術学博士)。著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『時代劇は死なず!』(集英社)、『仁義なき日本沈没』(新潮社)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP研究所)、『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文藝春秋)など

<構成/鈴木靖子 撮影/落合星文>

エドノミクス 歴史と時代劇で今を知る

エコノミストと時代劇研究家が「江戸経済」と「時代劇」から“今”を照らす




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