ピケティに乗っかって、自分に都合のいい主張をしている人たち
週刊SPA!連載<第二次正論大戦>
~ 城 繁幸「頭打ち社会への処方箋」 ~
◆ピケティという世界的ブランドを通じて自分の言いたいことを主張している人が目につく
先日、フランスの経済学者・ピケティ氏が来日した。「成熟した資本主義社会では格差が拡大し固定化する」という衝撃的な著作が世界中でベストセラーとなっている旬の学者である。
でも、問題はその取り上げられ方だ。どうも、自分の言いたいことをピケティという世界的ブランドを通じて言わせているだけの人が目につく。なかには「それってピケティが言ってるのと全然反対のことじゃない?」的なことをしゃあしゃあと言う人もいる。
日本で“格差”を論じたいなら、最低限以下のポイントだけは踏まえておいてもらいたい。
●経済成長は必要
格差反対という立場から、ピケティに乗っかって規制緩和や改革に反対している人たちがいる。でも、格差と経済成長は必ずしも相反するものではなく、むしろ再分配するためには誰かに思いっきり稼いでもらう必要がある。
だからどんな場合であっても、経済成長のための規制緩和や改革は必要なのだ。というか「格差反対だから規制緩和もダメ」なんて言っている人って、既得権を失うのが怖い小金持ちのように筆者には見える。とすれば、ピケティを引用しつつ格差固定バンザイという何とも笑えない話である。
●日本に大富豪は少ない
最も重要なのは、再分配はまあ必要だとしても、そのコストを誰に負担してもらうかだ。日本の給与所得者の上位1%に該当するのは年収1500万円超で、給与総額に占める割合はたった6.1%にすぎない(2013年民間給与実態統計調査より)。アメリカみたいに何十億円と稼ぐ人なんてほとんどいないということだ。
なぜ日本は格差が少なく見えるのか。理由の一つは日本が終身雇用の国であり、安定した大企業などに入れば65歳まで雇用が保証される代わりに、どんな有名企業であっても1年あたりの給料はそれほど高くはないことによる。
要するに、この日本で本気で格差をなんとかしたいと思うなら、これくらいの割と普通の人にも負担していただくしかないのだが、日本人にその覚悟が本当にあるのかという話だ。
電力会社に勤めていて年収700万円の人と、小さな居酒屋でサービス残業しまくって年収500万円の人の格差が200万円だと言い切れる人は少ないだろう。前者は65歳まで職が守られ、経営危機になれば政府が税金で救済してくれる。後者にはそのどちらも保証はない。
そういう会社規模によるダブルスタンダードを廃し、会社に頼らない社会保障制度をゼロからつくり上げることが、この国における最も有効な再分配政策だろう。でも、そこまで踏み込んで議論している人を、筆者は寡聞にして知らない。
<処方箋>
×格差を是正しよう
↓
○自分自身が身銭を切る覚悟はあるか
【城 繁幸/じょうしげゆき】
’73年生まれ。人事コンサルティング「Joe’s Labo」代表。『若者はなぜ3年で辞めるのか』(光文社新書)が40万部突破のベストセラーに。最新刊『若者を殺すのは誰か?』(扶桑社)が発売中!
※「第二次正論大戦」は週刊SPA!にて好評連載中
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