更新日:2022年07月02日 09:44

珍獣ドクター・田向健一「どんな動物でも買える日本の状況はおかしい」

アジア初、両生類の伝染病・ツボカビ症の発見、カメの手術の新方式を考案し、海外からも認められる獣医師、田向健一。爬虫類から猛獣まで、これまで100種類以上の“珍獣”を診察してきた“エキゾチックペット医療”のトップアスリートだ。今回、毎日放送制作の密着ドキュメンタリー番組「情熱大陸」出演を記念してSPA!2010年7月27日号のインタビューを掲載する。(O.Aは12月17日23:30~ ←前編はこちら ◆大学の獣医学は今でも家畜・産業動物が中心 ――エキゾチックを診る人は、業界では、変わった人と言われます?
カメの結石手術

カメの結石手術。甲羅に窓を開け、大きい場合はカナヅチで砕いて石を取り出す

田向:大学の獣医学は家畜が中心(※2)。で、犬猫をちゃんと診るようになったのがここ20~30年ですから、エキゾチックというと、奇異な目で見られて当然です。日本ではまだ未開拓な分野だから、海外の学会に勉強しに行ったり、今も大学に所属して論文も書いている。科学的な裏づけを取りたいんです。 先日、新しいカメの手術方法を開発して、アメリカの専門誌に掲載されました。海外で認められれば、普段、「カメかよ」って言っている人も、文句は言えない(笑)。僕、被害妄想が強いんですよ。「そんな動物なんか、何で診るんだ」ってずっと言われているから、それを払拭したい。
カメの結石手術

切開の跡は通常樹脂で留めるが、腐りやすいため、切った甲羅に血流を温存した上、パテで留める方法を考案

――ウサギやサル、カメなどを飼っている人も珍しくなくなりました。 田向:お金を出せば、誰でもどんな動物でも買える日本の状況は、ちょっとおかしいと思う。生まれてこのかた、金魚すら飼ったことがない人が、いきなり、飼うのが難しいカメレオンを買ってみたり、犬に触ったこともない中学生が、強い犬が欲しい!って、ピットブルを選んでしまったり。ピットブルなんてアメリカでは危険を理由に飼育を禁止している州(※3)もある。それなのに、日本では、お金を出せば誰でも買えてしまう。 飼うというのは、ある意味、特殊技術なんです。だから免許じゃないけれど、チワワを5年以上ちゃんと飼ったら、シベリアンハスキーを飼っていいとか、シベリアンハスキーを飼い慣れたら、ピットブルまでいいとか、段階を踏むべき(笑)。 ――飼い主側に気をつけてほしいと思うことは? 田向:動物をちゃんと、一つの命として見るということですよね。当たり前だけれど、物じゃないし、自分が思っていることを動物が思っているわけでもない。かわいがって、愛情を注ぐというのはすごく重要だし、愛情に勝る治療ってないんですけれど、生き物としてちゃんと見ないで、人間の勝手な想像で「ウチのコはこう思ってるに違いない」って言われても、病気は見つけられない。 ――以前、私が飼っているカメが、「水槽をガタガタさせて、出たがっているみたいです」と、先生に相談したら、「それは前に進みたいだけです!」って言われましたね。 田向:売られている多くのリクガメは、野生から来た個体です。ついこの間までノコノコ大地を歩いていたものが、現地の人によって石ころを拾うかのように捕獲され、木箱にすし詰めになって、日本に空輪されてくる。壁のないところで生きていたんですから、ガラスにぶつかったら、前に進もうとして、ガタガタやります。それを、「出たがっているんですけれど、どうしてですか」って、想像力を働かせる方向が間違ってない? ――それ、書いていいですか。 田向:だめです(笑)。僕は“優しさ″でご飯食べているんだから。でも、言われて「はあ?」と思うパターンはいくつかありますよ(笑)。 ――ほかには? 田向:例えば、すぐ数値化したがる飼い主さん。ウサギのウンコが今日は何粒とか。カメが食べた餌が、昨日25粒だったけれど、今日は20粒ですとか。数値を見れば確かに昨日とは違うけど、ちゃんと動物を日々観察していれば、それが異常なことかどうか区別つくでしょう。相手はアナログなものなのに、それをデジタル変換して押し付けようとするなんて愚かじゃない? ――リクガメのような野生動物を飼うことはどう思われますか? 田向:基本的には飼わないほうがいい!でも、考え方は2つあって、人間は地球の中でどういう位置づけなのかという話になるわけです。生態系のピラミッドの中の一つと考えるなら、飼っちゃいけない。けれど、人間は超越した存在で、自然の生態系になんか属してない、飼いたいものは飼いたいんだと考えるなら、それは人間の業、しょうがない。 ⇒続きはこちら https://nikkan-spa.jp/107705 「ペットのストーカーになってはダメ」 ●田向健一(獣医師) 愛知県出身。’98年、麻布大学獣医学科卒業。幼少時の動物好きが高じて獣医師に。大学時代は探検部で海外の秘境に動物訪問。卒業後は東京の動物病院勤務を経て、田園調布動物院を開業。「珍獣の医学」(扶桑社)など、動物に関する書籍を多数執筆。今でも多数の動物たちと暮らす ※2 家畜が中心 「牛や馬のほか、養蜂やブリ、ヒラメの勉強もするんですよ。熱帯魚のことは習わないのに。昔は犬猫でも『猫なんか診て』という時代でしたが、先人の努力で犬猫も獣医学として認められるようになった。ウサギとかカメも20年後にはちゃんとした一分野になっている、と思いたいです」 ※3 飼育を禁止している州 ピットブルはアメリカではフロリダ、コネティカットなどで飼育禁止。また、イギリスでは持ち込み・繁殖禁止。「日本には人に危害を与えそうな動物について特定動物の飼養・保管許可制度というのがあり、これを飼うにはこういう水槽や檻を用意しなさいという法律があるんですが、ほとんど意味をなしていません。またアメリカやイギリスには民間ですがアニマルポリスという認められている機関があり、変な飼い方をしていると没収されるんですよ」
珍獣の医学

現役獣医師が多様化するペット医療の知られざる現場を描く

おすすめ記事